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隠し切れない想い

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※殺し屋を職業とする臨也と普通の高校生帝人の話。

求めていたもの。果てしない記憶の海の底に捨てて行ったはずの感情。
ただ、純粋に見返りもなく与えられるぬくもりに、心が悲鳴を上げた。
駆け出して、その胸にすがりつきたい衝動が後から後からとめどなく波のように去来する。
けれど、こんな自分に求められてはあまりにも彼が哀れだから。
だから、全てをこの身は拒絶するのだ。
「自惚れるな、下種」
どうか気が付かないで。この声が震えていることに。
そして、どうかそのままこんな汚らわしい存在など忘れて。

1.震えた声 (せいいっぱいの虚勢)


今にも泣きだしそうな顔をして、告げられた言葉。
どうしてあの人は自分を卑下するのだろう。
こんなにも凡庸で、どこにでもいる自分の方こそがそうあるべきなのに。
手負いの獣の様に威嚇することしか知らなかったのだろうか。
優しさというものを与えられたことなどなかったのだろうか。
僕はただ、貴方が好きなんですよ。
無性に、どうしようもなく愛おしくてたまらないのです。
だから、どうか僕を拒絶しないで。僕は貴方の傍にいたいのです。
もう、二度と目の前に現れないと言われたら。
僕は、貴方を探すしかないじゃないですか。

2.乱れた吐息 (急がずにはいられなくて)


こんな存在のことなど忘れてほしい。それができないなら無視をしてほしい。
だから、あえて傷つく言葉を選んで伝えた。
なのに、どうしてお前はそんなに必死になって俺を探しているの。
なんで、そんな泣き出しそうな顔をしているんだよ。
どうして、どうして。
「っ・・・なんで・・・っ」
こんなにも醜くて汚らわしい存在なんて、綺麗なお前にはふさわしくないのに。
「臨也さんっ」
体中の血が沸騰して、目頭が熱い。喉が痛くて、鼻の奥がツンとする。
本当は駆け出したい。抱きしめたい。抱きしめられたいんだ。
でも、ごめんね。もう、これでさようなら。
呼ばれる声を振り切って、俺は人ごみの中へと消えていく。

3.揺れる瞳 (気にしてない、ふり)


雨の中、無我夢中で走った。
サイレンの音がやけに煩くて、野次馬が邪魔で邪魔でしょうがなくて、
人の裂け目を縫うように、押しのけながら先へと進む。
黄色のテープが張り巡らされた中央に、あの日から探していた人がいた。
「っ」
喉から悲鳴ともつかない声が漏れて、駆け寄ろうとしたのに、
警察官から体を羽交い絞めにされる。
何か大きな声をかけられている気がするけど、
それどころじゃないんです。通してください。行かせてください。
僕の邪魔をしないでください。
だってそこに彼がいるんですよ。ずっとずっと探していた僕の大切な人がいるんです。
「臨也さん臨也さんっ」
手を伸ばしても届かない。どうして邪魔をするの。お願いだから傍に行かせてよ。
僕は獣のように始めて人の腕にかみついた。
怯んだ瞬間を逃さず、大人の腕をかいくぐり漆黒の人の傍へと駆け寄る。
「臨也さ・・・・」
「バカだろ君、本当にバカ」
臨也さんは大怪我をしていて、辺りには救急の人が困惑顔でいたけれど気になどしていられない。
あの時より真っ白な顔で、震える指先が僕の涙を拭ってくれたから。

4.冷たい指先 (ほんとうはずっと待ってた)


この生業をしてきて初めて仕事で失敗した。
失敗は直結して死に繋がるというのに、油断してしまった。
気がつけば辺りは人でごった返していて、耳が騒音しか拾ってこない。
降りしきる雨は鋭い刃物のように、ボロボロの身体を痛めつける。
(そろそろ死ぬかなぁ)
そんな虚ろな精神に身を漂わせていたら、名前を呼ばれた。
騒音の中でどうしてその声だけ拾って来られたのかなんて、知らない。
それでもこの耳は確かに聞いたのだ、己の名前を。
緩慢にその声のした方を振り向けば、
拒絶をした少年が必死にこちらに向かって手を伸ばしていた。
駆け寄ってきて、名前を呼ばれて。
今の今まで築き上げてきた虚勢も拒絶も何もかも、崩されていく。
殆ど力の入らない腕を押し上げて、暖かな雫を拭ってやった。
「バカだろ君、本当にバカ」
本当に馬鹿は自分。結局心はどうしようもなく、彼を求めていた。
もう、自分では抑えるほどが出来ないほどに。
(ごめんね、こんな奴に愛されて)

5.かみ締めた唇 (涙は見せないよ)


辺りに響くのは波の音。
長閑な世界に広がるのは一面の蒼。
「臨也さんって海好きですね」
「んー。そうかな。そうかも」
思案気味に呟いてから1人で納得をする臨也に、帝人はくすりと笑った。
「車椅子だから海岸におりられないのは残念なんだよね」
「本当にやめて下さいね。車椅子が埋まります」
二度と動かないと言われた足を持った臨也に、帝人は傍に有り続けた。
「流石にしないから。俺そんなに無鉄砲じゃないよー」
「はいはい」
流れるような軽い会話に、臨也は目を細め海を見つめる。
幸せ、と一言で表すには言葉足らずなこの時間。
「帝人くん」
「はい?」
「また、海を見に来よう」
「もちろんですよ」
作品名:隠し切れない想い 作家名:霜月(しー)