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Keep a silence 4 (ラスト)

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「………そっか、上手くやれてけてるんだな……よかった………うん」
秋の夜長に、風丸は電話で誰かと会話していた。
「こっちも特に何もないよ。この間また皆と飲んだけど、相変わらずさ。………解ってるって、お前が帰ってきたらまた皆で集まろうぜ。……うん? いや、大丈夫だって。皆ちゃんと時間作ってくれるさ………うん」
言葉の合間合間に相槌を入れる。受話器を持って放す風丸の背後から手が伸びた。シャツの衿から見えるうなじの辺りを掴もうとするので、風丸は電話の相手と会話を続けつつ、その手から身を捩ってかわした。取り込み中だと言わんばかりに相手を視線で制止し、手を払った。
「豪炎寺? ああ、相変わらずだよ。変わりない。元気にやってるさ……現在進行形でな……。あ、いやいやなんでもない」
自分が話題にされた事に気づき、風丸の隣に居る張本人は音を出さずにクッと噴出した。視界に映るその様子に、風丸は受話器を握りつつも恨めしげに豪円寺を見詰めた。
「本当に皆、相変わらずだよ。皆お前を応援してる。……うん、ちゃんと見てるぜ。俺も。……だから……、……いや、なんでもない。……うん、頑張れよ。くれぐれも、体調には気をつけろよな。……ああ、それじゃ」
ピ、と言う音を立てて電話を切った。風丸はしばらく、自分と相手を繋いでいた受話器を眺めていたが、回線の途切れたそれからまた彼の声が聞こえてくる事はない。風丸は顔を上げ、背後に居る人物に目をやった。
「円堂、元気そうだな」
「………ああ」
豪炎寺はそれ以上何か言う事はなかった。ただ風丸の背後に回りこみ、また後ろ髪から現れているうなじに触れ背中にかけて指を滑らせた。
「あんなに伸ばしてたのに、勿体無いな」
頭頂部に存在していたはずの結び目は無くなっており、長くて豊かだった彼の髪は襟ぐりあたりで切り揃えられていた。
「いいんだ……どうせ、意味なんか無かったから」
「?」
その言葉に豪炎寺は添えていた手を離した。
「ただなんとなく、切るのを怠っていたんだ。惰性で切らなかっただけさ。……切れなかったんだ。未練がましくさ」
「………」
「でも、もういいんだ。切った方がさっぱりする。これでいいんだ」
だが、未練と後悔は募るのだろう。長く長く続けてきたものを切ってしまうのには恐ろしい程の勇気が要る。

「それでも」
豪炎寺が言葉を紡ぐと、彼はこちらを振り向く。あの風を思うままに受け靡かせていた長髪が無い彼には、どこか違和感を感じる。輝かしいほどの清廉さを感じるとともに、どこか不安定で、寂しげで、そして、歪んでいた。



「お前の髪は綺麗だったよ」



「…………ありがとう」




緩やかに笑う彼は、ひどく儚げだった。



 そして、豪炎寺は思う。彼はまた髪を伸ばすのだろう。それでもいいと思う。彼の髪はとても真っ直ぐで、美しくて、清らかだったから。その方がいいと思う。髪を靡かせてその名前のままに、疾風の如く走る彼は美しかった。
風のままで居れば、この空の向こうに居る彼の元にだって行く事が出来るだろう。今はただ、彼自身がその事に気づくのを待つだけだ。
 豪炎寺はまた風丸のうなじに唇をよせて、後ろから抱きこんだ。風丸は、何も言う事はなかった。