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Q:彼女の料理が不味かったときは、どうすれば?

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AKUMAは食を必要としない。
人に擬態する上で「食べて見せる」くらいのことは可能だけれど。

AKUMAは食を必要としない。
欲に根ざさない行為はレベルアップもしにくいわけで。


<Q:彼女の料理が不味かったときは、どうすれば?>


エリアーデの目下の悩みは、クロウリーの食の細さだった。
身長の割に食べない。
以前からそうなのかと思っていたら、最近目に見えてやせてきた。
(どうしてかしら?)
物憂げに頬杖をつく姿は、物語の一場面のように様になっている。
(アレイスター様も、美味しいって言ってくれるし)
彼の感想に、彼女は一片の疑念も抱いていない。
好意を寄せられている事には気付いていたが、それが、生焼けのパンでもおいしいと言わせるレベルに達しているとは気付いていなかった。
恋をしたことのない彼女には、恋する者がどこまでも耐えてしまうのを理解できなくても無理はない。
(今日は、いっぱい食べてくれるといいなぁ)
眉を寄せ、小さく溜息をつく姿も蠱惑的だ。
まさに、美しさは罪、を体現したような女性といえた。

エリアーデはぱらぱらとレシピ本をめくる。
これはクロウリーの祖父の書庫にあった1冊で、材料の分量が書かれていなかったり加熱時間が曖昧だったりする年代物な本だった。
現在持ち上がっている問題の半分以上は、この本が原因と言えなくもない。
(どれがいいのか、よく分からない……)
丹念に蒸し上げられたプディングも、裏庭で朽ちかけている倒木も、エリアーデにとっては大差のない物体だった。
普通の人間が、スギとカエデのどちらの朽ち木が美味しいのかを見極めようとしているにも等しい難題だ。
(んー……これ、にしようかな?)
結果、食材の有無でメニューが決定される事が多い。
(鴨だったら、湖にいくらでも来てるものね)
愛情たっぷりに狩猟に出発するエリアーデだった。

   ※

「お夕食ができましたわ」
花が咲くような笑顔で、エリアーデはその時を告げた。
「あ、ああ。今行くである」
刑の執行を告げられた囚人の覚悟で、クロウリーは椅子から立った。

食卓に並んだメニューは、見栄えはさほど悪くない。
美意識の高いエリアーデが作っているのだから、そこに不思議はなかった。
そこが口にした時の攻撃力を底上げする要因でもあるのだから、タチが悪いと言われればその通りだが。

二人は食前の言葉を口にして、仲良く食事を始めた。
(コレ、美味しくできてるのかしら?)
パン、口の中でもちゃもちゃする。
豆のスープ、口の中でさらさらする。
鴨のソテー、口の中でぐにゅぐにゅする。
口中に異物がある、という時点でエリアーデにとっては全ての食物が不快に分類される。
なので美味しかったのかどうかはクロウリーにきいてみなければ判断が付かない。
「……こちら、初めて作ったんですけど、お口に合いまして?」
「え? あ、ああ! もちろんであるっ!」
動揺を隠すのに失敗したクロウリー。
ソテーの味の検分に集中し過ぎたらしい。
「そう、ですか……」
(今回は失敗だったかしら?)
エリアーデの顔が曇った。
それに気付いたクロウリーが慌てて言葉を続ける。
「美味しいである、とても!……し、強いて言うならスープにもう少し塩気が欲しいかな、と」
「まあ」
レシピにあった「塩少々」の解釈が少なすぎたらしい、と納得したエリアーデは塩の容器を取りに行った。
ざくりとスプーンですくい、スープ皿の上にかざす。
「何杯?」
「はい!?」
紅茶に入れる砂糖の数を聞いてくるのと全く同じ口調に、戦慄を覚えるクロウリー。
「いやいやいや、そんなには要らないである。エリアーデの味付けはほとんど完璧である! ちょっと、ほんのちょっと足したら良いかな、と思っただけでっ」
親指と人差し指で、うすーく隙間を作って見せるクロウリー。
「そうですの?」
ほとんど完璧、の評価にエリアーデの表情が少し明るくなった。

結果オーライ。
二つの意味で、結果オーライ。

「ちょっと、ぱらっと足すくらいで……」
「ぱらっ、と」
「はいOKである!」
エリアーデには誤差にしか感じられない塩分量だったが、クロウリーが満足した様子でスプーンを運び始めたので良しとした。
(……あれ? じゃあ、普段も薄かった?)
僅かな疑念を残し、夜は更けていく。

   ※

Q:彼女の料理が不味かったときは、どうすれば?
A:遠回しに指摘してみる。