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ここでキスして

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 灰色の空を見上げてはため息をついた。今日もロンドンは曇りのち雨。昼間だというのに暗い空。まるで、自分の心を投影してるように見えた。
 その日、何度目になるかもわからないため息をつく。どうかされましたか、と部下が心配してか尋ねてきた。そんなに顔に出ているだろうかと頭を振って答える。原因はわからないでもない。が、あまりにも馬鹿らしい。きっとフランスやアメリカに知られれば鼻で笑うのだろう。それだけは避けたいところだった。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。今日は早いんだな」
 会議室に入ると、日本が声をかけてきたのでイギリスは挨拶を返す。すると日本は呆気にとられた顔を一瞬見せてくすくすと口元を手で押さえて笑った。何がおかしいのかイギリスには理解できず、ムッと眉間にしわを寄せると日本は何を言ってるんですか。と言葉を続けた。
「イギリスさんが、いつもより遅いんですよ。ほら、イタリア君やアメリカさんも既にいらっしゃるじゃないですか」
 日本の指差す先には確かに他の国と談笑するイタリア、アメリカ両名が見えた。会議の始まる数分前にやってくる二人が先に来ている。視線を腕時計にうつすと確かに間もなく会議が始まる時間だった。
「何かなされましたか?」
「いや、別に」
「イギリスさんが一番最初にいらっしゃらないなんて、珍しいこともあるもんですね」
 考え事でもあって眠れなかったんですか?と日本は問う。この妙に目敏いところは相変わらずだ。隠し事をしたって無駄なんだろう。
「あぁ、ちょっとな」
 そうですか。と、あっさりした返事が返ってくる。無理はしないでくださいね、と日本はイギリスに告げるとアメリカの方へ歩いていってしまった。仮にも恋人の様子がおかしければもう少し追求してもいいんじゃないか。と、頭にそんな考えがよぎってイギリスは額に手を置く。何を考えているのだ、と。
 思ってたよりも重症なのかもしれない。今度は誰にも気付かれないように、自嘲の笑みを浮かべた。まるで網にかかった魚だ。逃げて逆らおうとすればする程に罠をかけた相手に堕ちていく。なんと滑稽な図だろうか。しかし頭はどんどん冴えてゆき、先ほどよりも幾分気分もいい。開き直ったといえばそうなのかもしれない。
 会議が終了し、それぞれが帰り支度を始める。まだ会議場で会話をしている者もいれば、さっさと会議場から姿を消してしまった者もいる。相変わらずまとまりのない集団だ。国によって文化や考え方は違うのは仕方ないとは思うけれど、如何せん協調性にかけていると日本はあたりを見回してため息をついた。
「日本、いたいた。どこへ行っちゃったかとおもったぞ」
「アメリカさん」
 声のする方を振り返ると、双つの碧眼が日本を覗き込んでいた。彼の瞳を空と例えるならば、あの人の瞳は深い森のようだ。と、ぼんやり考えていると再びアメリカが日本、と名前を呼んだ。
「なんですか」
「君も意地悪だな、と思って」
 それはそれは。
「心外ですね。これも私の愛ですよ?」
 アメリカは何か知っているように日本に話しかける。日本もそれを知って肩をすくめて返す。そう、これはゲームに近い感覚。彼が自分の所に堕ちてくるのをゆっくりと、じわじわと待っている我慢比べ。
「私も気が長い方ではありませんから」
「よく言うね。ずっと誰の言葉にも耳を傾けず、閉ざしていた君が」
 あの頃とは違うんです。と、日本は視線をアメリカからそらして会議室の丁度反対側にいる彼の方へ向ける。カナダとフランスと談笑する姿。表情は穏やかかもしれないが、心のうちは激情が渦巻いていた。
「怖いなぁ」
「お互い様ですよ」
 私は貴方が怖いです。何を考えているのかわからない。笑いながら喉元に刃を突きつけられているみたいです。と、日本が言えばアメリカがそれこそ心外だ!と日本の肩をつかんで抗議の声をあげた。苦笑いを浮かべていると、話を終えたらしいイギリスが二人に声をかけてくる。
「どうかされましたか?」
「いや、あの…ちょっと、UKJAPANの総括について打ち合わせしたいんだが。この後暇か?」
「えぇ、平気です。それでは、うちで部屋を用意しますよ」
「いや畏まったものじゃなくて、簡単なものでいいからその辺で構わない」
 ということで、日本を借りていくぞ。と、イギリスはアメリカから日本を引きはがすと日本の右腕をつかんで引っ張るように歩き出す。つかむ手がぎゅっと力強くしめられ。若干痛みを伴うものの、それ以上の嬉しさがこみ上げてくる。ニヤケそうになる顔をひきしめて平静を装う。たったこれしきのことで嬉しいだなんて、実は勝負の負けているのは自分なのかもしれない。と、日本は思うのだった。

 勢いあまって、適当にごまかし日本をアメリカから引き離すことに成功したイギリスは焦っていた。打ち合わせとはいったがそんなものとうの昔に済ませたし。もはやUKJAPANもあとは無事終わるのを待つだけという状況。
「あの、イギリスさん」
 恐る恐るといった声色で日本はイギリスに声をかける。ピクン、と揺れた肩。
「イギリスさん、その件についてはもう」
 必要な打ち合わせはすべて終了しましたよね?振り返らずにイギリスは無言のまま進んでいく。用は、あるのだろうか。ふと日本がそんな疑問を持ち始めた時、イギリスの歩みがとまってある部屋の前へやってきた。
「イギリスさん、どうかされたんですか?」
 本当は、もう気付いている。
「顔色が悪いですよ、中で横になりましょう」
 ほら、早く。早く、こちらへいらっしゃい。微笑む日本とは対照的に顔を首まで真っ赤に染め上げて俯いているイギリス。
「イギリスさん」
 あぁ、意地っ張り。だけどそんな所も可愛いと思ってしまうのです。
「キスしてください」
 ここで、今すぐに。貴方の熱を感じさせてください。ほら、ここは貴方の部屋の前。逃げ出したいなら逃げなさい。どこまでも、どこまでも追って差し上げましょう。

「イギリスさん」
 もう一度日本が名前を呼ぶと、イギリスは顔をあげて日本の首に腕を回し。目をつぶって顔を近づけるのだった。

END*
作品名:ここでキスして 作家名:新羅あおい