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『駄目ですか?』

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『駄目ですか』


憧れだとか尊敬だとか
いろいろ悩んだところで結論なんて出ないわけで
結局うじうじうじうじ
もはや自分が面倒くさい
なんだかんだいって
まだガキだなあとため息

  「 好 き 」

全てはそのひとことに集約されるんだろうけど
それが言えたら苦労しない
だから憧れとかいろいろ言い訳つけて悶々としてんだよな

ああしち面倒くさい

俺じゃあ駄目なんですか

駄目に決まってる
俺なんて下っ端の下っ端

妖ってやつはもっと豪快なもんじゃねえのか
うじうじじめじめうざったい

「猩影じゃねえか」

声の主は振り返らなくてもわかる
「…若」
「なんだよ鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しやがって」
なんともおかしそうにカラカラと笑う
そりゃいきなり主に会えば驚きもするだろ
まあ…自分の場合は理由は別のところにあるわけだけどそれはもちろん伏せておく
「夜の散歩、っすか」
話を変えたことを別段気にする風もなく「ああ」とだけ答える
いつもろくにお供も連れずにでかけるもんだから側近達がやきもきしているとよく耳にする
今はまったくのひとりで蛇すら連れていない

「すっかり夏の風だな」

夜空を見上げる横顔 風に揺れる髪

「たまにはこうやってふらふらとすんのもいいもんだって本家のやつらを誘ったのによ、誰もついて来やしねえ」
珍しいこともあるもんだ
このひとが散歩に誰かを誘うだなんて
思ったのが顔にでていたのか
俺の方をちらっと見て静かに笑った
「誰かと他愛のない話をしたい時だってあるんだよ」

一枚の絵画のような
静かで、でも凄味のある光景

呼吸を忘れそうになって
息を絞り出した

「お」

ん?とこちらを見る
やめてくれ
見つめられると言葉も出なくなる

やっと
やっとふりしぼった言葉

「…俺じゃ、駄目ですか」

いつも切れ長の目が大きくなる
きょとんという表現が的確な顔だ
これは…やっちまったか…
汗が噴き出そうになった時それは豪快な笑いに変わった
「若」
このひとはからかっているのか?
いくらなんでも笑いすぎだ
ひとしきり笑ったあと何事か思いついたような顔をして歩き出す

「ついてこい」

顔を見なくてもわかる
いつもみたいにひとをくったような笑みを浮かべているに違いない
「はい」
さっきの態度に釈然としないながらも続いて歩き出す


夢も理想も現実も
好意も憧れも尊敬も

何も思い通りにいかないもんだけど
しばらくはこのままでも

「お供しますよ」

こんなのもいいもんだ


・・・よな?


end.
作品名:『駄目ですか?』 作家名:猫目