二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

tmmy

INDEX|1ページ/1ページ|

 

 待ち合わせをした。
 珍しく、待ち合わせをして出かけた。
 いつもは約束なんてしなくても隣にいるのに。そう思うとすこし、むずがゆかった。

 美しく晴天。風が光るように涼しい。ひとり、手放しで歩くのは楽しいような。心許ないような。

 雲のない初夏に、お前は待っていた。当たり前のようにオレより先に来ていて、しっとりと、まるで時など流れていないかのように立っている。
 少し遠くから名前を呼んだ。するとお前はこちらを見る。柔らかな睫毛がひとつ瞬いて、そうしてオレに焦点が合う。
 途端、お前は小さく駆け出した。お前のいたところのほうが正しかったのに、何の躊躇もなくオレの目の前に走りきた。

 やってきた、お前のかお。
 うれしいのだと、満面にほころんだお前のかお。

「………」

 たまらず、抱きしめた。
 人目なんて、ないもののように力づくで引き寄せて抱きしめた。
 そうしてしまうと、お前の顔は見えなくなった。でも、わかる。困り顔の、赤い頬。
 知っている。わかっている。

 お前は、オレのこと。

「好きなんだろ」

 小さな声を、目の前の耳に吹き込んだ。え、とか、なに、とか。そんなようなことをオロオロと口走るのは無視した。

「知ってる。オレも」

 好きだよ、ささやいた。そうして、やっと体を離す。
 見えた顔は赤くて、でも、困り顔なんかではなかった。

「………なんで泣くの」
「…空があおいから?」

 そんなことを言う、お前。
 悲しそうでもなく、寂しそうでもなく、ただただ頬を伝い落ちていく雫。
 お前の目の裏から、それを押し出したのは間違いなくオレだ。

 おもう。
 むかし、お前は幸福だったんだろう。
 いつか、春のような。
 ゆめのなかかもしれない。

 お前はオレの手をとって泣いた。
 音もなく、絵空事みたいに落ちていく涙は手指を濡らす。こぼれていく涙を、拭いたいとは思わなかった。
 つないだ手に零れて濡れていく、その水はひどく心地よかった。
 涙はあとからあとからあふれてくる。
 たった四つの音が、お前に何をもたらしたのか。それは、オレにはわからない。わかりようもない。

 オレがささやいたその言葉にお前は、答えなかったし、頷きもしなかった。
 お前は涙を零して、ただ、とりあった手は離さなかった。

 そういう、そういうお前だから。いつかまあるくあったお前のやわらかいなにかが傷ついて、欠けて落ちて、きれいになるのだろう。
 たぶんきっと、オレの所為で。
 そういうお前でなかったら。そういう、お前だったから。オレも、あわせた手のひらを解くことはできない。
 いつか、お前はしあわせだったのだろう。

「なんで、泣くの」
「太陽が、まぶしいから?」

 もう一度訊いてみたけれど、返ってくるのはそんな言葉。
 陳腐すぎる。そう思って、少し顔をしかめると、今度はゆるく笑っていた。笑っていたから、もう、なんでもよかった。

 空が青い。雲はない。
 嘘みたいな晴れ空だ。
 手を引いて、歩き出した。

 ついてくるお前に、好きだよ、もう一度告白した。
 やっぱり、答えはなかった。
作品名:tmmy 作家名:もちな