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凌霄花 《第一章 春の名残》

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序章


「…秋も暮れか」

 『水戸の黄門さま』こと、徳川光圀は旅先のある宿で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
 
 彼は日を追うごとに日没の時刻が早くなり、空気が冷えて行くのを実感していた。
 さらに彼は、自分自身の変化にも気付いていた。

「…わしも、そろそろかの?」

 沈んでゆく夕日を見て、そんなことをつい口走った。
気弱な自分に自嘲し、後ろ向きな考えを振り払うかのように、再び美しい夕焼けに眼をやった。
 しばらく美しい光景に見惚れていたが、違う物に興味が移った。
 それは信頼する二人の供だった。光圀と同じように夕日を眺めていた。
その様子をほほえましく眺めた彼は、あることを思い立った。

「今回でやはり終いにしよう。あの二人の為にも…」