凌霄花 《第一章 春の名残》
お銀は部屋の障子を開けて帰らず、屋根裏に消えた。
「普通に帰ればいいのに…」
「だよな。弥七もそうだ」
忍びの不思議な行動を見た後、二人はいそいそと支度を始めた。
そして一行は予定通り、朝早く水戸へ向けて発った。
「さて、水戸じゃ!」
元気いっぱいに前を歩く主に、早苗は声をかけた。
「本当に大丈夫ですか?」
「心配など要らん! 早く帰るぞ!」
「そうですか?」
しかし、早苗は不安を拭い去ることができなかった。
そんな彼女に、助三郎がそっと耳打ちした。
「格さん。あんまり心配するな。『年寄り扱いするな!』って怒って姿を消されたら、たまったもんじゃないだろ?」
「それもそうだな」
「そういうことだ」
二人で話に切りを付けた所、光圀がからかった。
「これ、男同士でイチャイチャするでない。まだ朝じゃ」
この発言に二人は声を揃えて反論した。
「してません! 夜でもしません!」
二人をおもしろがり、光圀は高笑いした。
「はっはっはっはっ!」
…光圀のこの元気は、そう長くは持たなかった。
作品名:凌霄花 《第一章 春の名残》 作家名:喜世