ラッタッタ池袋→新宿
薄暗い歩道をかけぬける。手の中の携帯にはメールが次々とやってきて、刻々と街と人の様子を伝えてくれる。
ああ、なんて良い気分なんだろう。さいっこー!
俺、折原臨也、永遠の21歳。実年齢は最機密事項、なんちゃって。そう簡単に俺の情報は渡さないよ。ほら、だってさ、俺、情報屋だからね。
るんるんるん〜。
足取りは軽くて、スキップステップ、ついでにぐるんぐるんとまわっちゃう。なんだか羽が生えたみたい! ふわふわっしてる。あ、勘違いしてない? そっち系の、クスリとかやってないから。俺、そういうのやらない主義。それからアルコールも、ニコチンもね。ていうか、必要ないでしょ。
階段をたったっと降りて、JR池袋駅の改札まで。もうすぐ終電で、駅はそれなりに混んでる。俺は周りを見回してみる。みっともない酔っぱらい、夜遊びの女子高生に、死にそうな顔をしたサラリーマン、それから妙にすっきりした顔の三十代にみえる女性。あ、あれは若作りしてて、実際四十ってとこかな。目元の皺が消せてないよね。ふふふ。
ホームにすべりこんできた電車に、乗り込むよ。これから家に帰るんだ。俺のウチ兼事務所は新宿。俺の情報は簡単に渡さないんじゃないかって? これはみんな知ってることだからね。俺、結構有名なんだ。え、知らない。嘘嘘。知ってるでしょ、俺のこと。
家に帰るべく、池袋から出るとき、俺はいつもいつもいくらかの名残惜しさを感じる。まあ新宿もおもしろい街だけどね、でも池袋の方が俺は好きだよ。というか街よりも人、だね。池袋に集まる人間たちが。
で、山手線。俺は電車なんか乗らないって思われてるかもしれないけど、実はそうじゃないんだよね。タクシーとか、こわーい人の送り迎えとか思ってるでしょ。ちっちっち、違うんだな。こうみえて、俺、山手線愛好者なの。だって人がいるでしょ。せっまい電車の中に人あふれてるでしょ。ああ、人が好き。人ラブ。電車の真ん中で愛を叫びたい。でもそれは我慢我慢。我慢できる子折原臨也。
なんか今日はいい日だったしね。らららんらん。これだから人間ってたまんなぁい。
それにさあ、今日はシズちゃんに会わなかったからね。あ、ちょっといやなこと思い出しちゃった。
平和島静雄。俺が愛せない、唯一の人間。
あーシズちゃんねぇ。俺はいっつもシズちゃんをどうやって始末しようかかんがえてて、ほんとはそんなことせずにたっらったと人間を愛したいんだけど、そうするにはシズちゃんがほんっと邪魔でね。なかなか死んでくれないし。ほんっとにどうしようかなあ…。
手の中で俺の携帯がぶるぶるとふるえてるよ。ほら俺、いい子だから電車の中ではマナーモード。で、メールを確認する。うわ、いいこと聞いた。るんるんるん。早く、家帰ってチャットしたいな〜。田中太郎さんで遊びたいなあ…。まあ、チャットは携帯からでもできるんだけどね。
あ、そうそうシズちゃんの話だったっけ。
俺は、シズちゃんに死んでもらうことをしょっちゅうかんがえててさ、それからシズちゃんがいなくなった後のこともだよ。今まで三桁くらいのパターンかんがえたかな。それかんがえるとぞくぞくしてきてさ、たまんない。あーほんと、シズちゃん死んでくれないかなあ。でもさあ、シズちゃんがいなくなったら、「シズちゃんがいなくなった後のこと」をかんがえることができなくなるんだよね。それは困りものだよね。
あ、新宿ついたよ。それじゃあ、また明日、池袋で会いましょうねぇ。(ラブ)
作品名:ラッタッタ池袋→新宿 作家名:松**