Angel Beats! ~君と~
「ユイさんこれってひょっとしたら」
「いやいや、現実こんなに上手くいかないものだよ」
だが、現実はそういうものだ。
何気にくじ引きをやったら1等が出たり、じゃんけんで勝ったり、不思議な事が起こる。
そういうものだ。
「だけどこんな偶然・・・・」
「HAHAHA、まさか」
「笑いが英語になってますよ」
ガラ
「あ、お母さん」
そこにはユイのお母さんがいた。
「その子は誰?」
「初音といいます。よろしくお願いします」
「よろしくね。それで―――、この窓どうしたの?割れているけど」
窓を割ったのは二人では無いことが分かった。なぜなら、女の『カン』というものだ。
「急にボールが飛んで来たんです」
「『ボール』ねぇ」
確かに床にガラスが散乱してちょっと離れている所のボールがある。
「何処の子供かしらね。こんな事するのクスッ」
怒ってはいない。ただ、面白かった。
「お母さん?」
こんな姿を見るのは初めてかもしれない。
「スゲー飛んだな、日向」
(『病院の窓を割るんだ。それから謝りに行くんだ。』)
「日向?」
呆然と空を見上げた日向がそこにいた。
「日向、大丈夫か?」
「ごめん、ボーッとしてただけだ」
「一体なに考えていたんだ?」
「そんな事より、ボール捜しに行くぞ音無」
「捜しに行くってお前どれくらい飛ばしたと思ってんだ!?」
「さあね」
「さあねって」
何かとても頼り無さそうな気がしてならなかった。
「とりあえず俺の勝ちだな!」
「ああそういう事になるが、」
何故か日向は不敵な笑顔を浮かべた。
「という訳で、俺のボール捜しに手伝え!」
「どいう訳か分かんねぇよ!ま仕方ないか」
「それで、俺が打った球、あっちだよな」
「まあ、そうだな。俺見てないけど」
結弦に何か心に引っ掛かっていた。
大事な何かが。
「どーだ、音無見つかったか?」
「いいや」
捜して数分が経とうとしていた。
やはり見つからない。
「とすると残るは・・・」
「何処見ているんだ日向?」
日向が見ている場所を見てみるとそこは、
「病院、ハッ――――――」
たった一人の家族が、妹が入院している所だ。
「おい、日向」
「どうした、音無」
「病院のさ一番左から5番目の窓、割れていないか?」
「!?」
それは大変な事だった。
仮にそこに人が居なかったとして窓の弁償だけで済むが、人が居たら――――――
「音無、覚悟良いか」
「ああ勿論さ」
もう二人の心は決まっていた。
「謝りに行くぞ・・・」
「ああ」
二人は笑い合いながら、死んだ顔で、歩き出して行った。
ユイのお母さんは窓ガラスの破片をかき集めていた。その前に初音が手伝おうとしたら強制的に止められた。
「ユイさんが言う人、来ないですね」
「そうだね、所詮夢だったのかな。初音ちゃんが言った通りただのそこら辺の近所の悪ガキだったのかなぁ。ちょっとショックだな」
今まで何処か心の奥底に秘めた想いは灰が風に乗って運ばれて行くように、何も残っていなかった。
「神様、いなかったのかな」
「そんな事無いと思います」
キッパリ否定された。そして続けた。
「信じ続けたなら、こんな事起こりませんよ。それに『信じる』と決めたなら最後まで信じ続けなきゃ駄目ですよ」
「心に響いたよ、ありがとうね初音ちゃん。もう一回信じてみるよ」
ユイのお母さんは背伸びをした。どうやら片付けは終わったみたいだ。
「さてさて、終わった終わった。来ないわねボールの持ち主」
コンコン
「先生かな?」
「どうだろ、ちょっと出るね」
スタスタとお母さんはドアの方へと行った。
『ごめんなさい!』
二人は同時に頭を下げた。
「どうしたの少年達?急に謝られても困るんだけど」
「実は公園で野球をやっててそれで、俺のボールが飛んで窓を割った訳なんです。ごめんなさい!」
「原因は元々俺です。コイツは関係ありません。ごめんなさい!」
「公園って遠いじゃない!どうやってここまで飛ばしたの?凄いわね!」
「あれ?この声お兄ちゃん?でも後一人、誰?」
「お兄ちゃん?いたの?」
「まあまあ二人共、よく正直に言えたね。ボールは部屋にあるよ」
「はい、とっても優しくて頼れる兄なんです」
「そっか」
ガチャ
「失礼します」
「お邪魔します~」
「お兄ちゃん!」
「初音!?どうして?」
「迎えに来るの遅いから病院の中探検してたんだ」
スッカリ忘れてた。
『あ』
「ひなっち先輩?音無さん?」
『ユイ?』
ありがとう、先輩
良かったのか、これで―――――――
ああ―――――――
「お兄ちゃんと知り合いなの?ユイさん」
「ユイ、この人達と知り合い?」
『さあ?』
三人揃ってハモった。
「うちの妹がお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。良くして頂きありがとうございます」
「ありがとうございました!」
「大きな声でありがとね初音ちゃん」
窓の弁償はしなくて良かったらしい。
あの先生が弁償してくれるみたいだ。
「あの」
「なぁに、日向君」
「また、来ても良いですか?」
「ええ、勿論よ」
「私も、良いですか?」
「初音ちゃんまで来てくれるの?ありがとね。えーとお兄さんの名前は?」
「『弦』を『結』ぶと書いて結弦です」
「そうなんだ結弦君もどう?」
「俺は時間が有ったら来ます」
「そう、今日はありがとうね」
ユイのお母さんは結弦達を最後まで見送った。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影