東方南十字星 the SouthernCross Wars零
西暦2020年・日本、大阪。
そこは工業の発達が日本一早く、同時に生産量もいまだトップに君臨し続ける三大都市のひとつ。
同時に、自然を保護するという世界的な条約のもと、いくらか一昔前の風景が感じ取れる。
そんな古き良き大阪と同じように、昔の風景を残し、近代化がまったくといっていいほど進んでいない世界がある。
その世界は、妖怪、妖精、さらには神といった空想上の存在が、人間と共存していくことを目的に創られた最後の楽園である。
その歴史は古い・・・・・・・。
かつて、神々が全国を治めていた時代。
人々は神を信仰し、自分たちの土地が豊作になれば、それは神のおかげだとして、さらに信仰した。
神は当時絶対の存在であり、強大な力と権力を持っていた。もちろん、それも人間達による信仰によるものだったが。
同時に、妖怪というまた別の存在が人々の恐怖の対象になっていた・・・・。
時は流れ古墳時代。その時新たに仏教が入ってきた。宗教戦争などを繰り返し、少しずつ、人間は信仰の対象を変えていったが、そのときはまだよかった・・・・・・・。
その後も飛鳥、奈良、平安、鎌倉、南北朝、室町、戦国、江戸・・・・・。時代が変わろうとも、
時を越えて人間の上に存在し続ける妖怪、その下の人間。人間とは、当時は実に無力な存在で、
並の妖怪にも簡単に食われてしまうほど弱かったのである。
だが、その人間が妖怪のはるか上にいずれ君臨することになろうとは、誰が想像できただろうか?
やがて、人間は哲学、科学を大きく発達させる。その時すでに、人間は妖怪に対抗するための手段を生み出した。
日本で言えば陰陽師のような存在である。謎の力を使い、妖怪を乱獲し、痛めつけ、殺し、屈辱した。
その動きは長く続き、後には魔女狩り、悪魔払いというように、人間以外のものを徹底的に迫害し続けた。
その後妖怪は、突如として姿を消す。しかし人間はそんなことはもう気にならなくなっていた。
神々に対する信仰も、薄れて、いや、厳密にはもう神の存在は必要なくなったのである。
世界の帝国化、後の産業革命、その他数々の戦争を繰り返した結果人類は、非常に脅威的なものとなっていった・・・・・・・。
歴史が進み、技術が発達していくにつれ、人間の科学力は凄まじいものへと姿をかえる。
一度に数百発も発射する銃器や、手軽に起動させられる強力な手榴弾。さらに投下することで非常に高い火力を持つ爆弾。それを積む爆撃機・・・・。
高速で飛行する戦闘機。機銃、ミサイル。大砲を載せた戦車、軍艦。
さらには原子力、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなどといったものは、下手な使い方をすれば一瞬で世界が滅びかねないのだ。人類は、すでに行き過ぎていた。
この頃には、神への信仰はまったくといってもいいほどなくなり、神の姿、気配すら感じる事の出来る人間など既に存在しておらず、神々は、この地球上から姿を消した・・・・・・・・。
最終的に、どの種族もこの地上からは姿を消したわけだが、消滅したわけではなかった。
幻想郷という、最後の楽園に逃げたのだ。そして隔離し、外の世界とは一切の関係を断ち切った。
その存在を見つけることは事実上不可能。現在のバリアやシールド、ウォールとはまったく別物な、
『結界』によって拒まれたからだ。もっとも、幻想郷の存在を分かっててやったわけではないが・・・。
2020年、日本。
日本、大阪の「空堀商店街」のあるお好み焼き屋に、妙な男共が四人・・・・。
一人は黄色い目に真黒の髪。
一人は左目に古傷。
もう一人は髪が前に突き出ていて、野球中継にやたら熱くなって騒いでいる。
最後の一人は茶髪の若々しい者。
とても個性的な一般市民に見えるだろうが、実は彼らは全国的に有名なスタントレーサーであり、
かなり強力な傭兵部隊でもあるのだ。(当然極秘だが)
「ええい、くそっ!あ、ホレ、そこやそこ!!あぁ、もうバカかあんたは!そっちに回すひまあったら
三塁に持ってけばええだろうに!」
「・・・・・吉本。あまり騒ぐな。他に迷惑だ」
どうやら、吉本と呼ばれた男は自分の信条の野球チームの調子がうまく出てないことに熱くなっているらしい。
それを沈めようとする黄色い目の男。
「まぁ、えぇよ。そんな客はしょっちゅう来るし、なにしろ野球が好きなやつなんぞ、そこらじゅうに
おるさかい」
「すいませんね。ほんま」
店主と茶髪のやり取りを聞きながら、次のスタントレース会場を確認する左目の古傷、岡島。
「おっ!打った!よしいけ!!いったいったいったいったいった!!!っしゃぁ!!満塁逆転ホームラン!!」
「今年もやりましたねぇ。阪神」
「当然よ!決めるとこで決める。それが大阪人ってもんや!」
「以前は始めから最後まで優位に立ち続けるのが大阪人じゃなかったのか?」
「う、うっさいわい!」
「ふぅ・・・・。さて、そろそろ行くか」
岡島が席を立つ。
続けざまに、
「ほな、オレが勘定しとくさかい、井野村、新幹線の席、オレのもとっといてや」
黄色い目の男、井野村は一回うなずくと、
「わかった。しかし、まだ何かあるのか?支払い程度なら待つが・・・」
「あぁ、最後にちょっくら、土産買っとこう思うてな。時間かかりそうさけん、先にいっとってや」
「じゃあ、新大阪で合流ですね」
「遅れんなよ」
茶髪もとい羽田、岡島の順でよびかけ、三人は新大阪駅へ出発した。
「さぁて、どうすっかな~」
新幹線の中、彼らは座席をひっくり返し、向かい合うように座っていた。
静岡県の中間にさしかかったところで、異様なくらいくっきりと富士山があらわれた。
「こいつはでかいな」
「皆さんは、富士山のジンクスって聞いたことあります?」
「ジンクス?」
「なんや?そら」
「ほら、有名ですよ。こうも富士山が通りすがりにっくっきり見えると、向かう先でなにか重大な事が
起こったりするんですよ。僕の友人が東京へ来たときに聞きました」
「そういや、明日帰ったら早速レースだな。けどジンクス・・・・つってもなぁ」
「井野村が事故るとかw」
「やめろ、縁起でもない」
否定したのは当然本人。なにしろ、彼は世界的にもかなり有名なレーサーで、一位は取り逃しても
リタイアなどといったことはしたことがない。
もしそんなことが起きれば、メディアやマスコミが黙っているわけが無いのだ。
四人、特に井野村は、押し寄せる群集やレポーターやカメラマンは大の苦手だ。おまけに井野村本人のプライドも傷つきかねない。(しかし、一方で「負けるのは自分の油断か定めだ」と認めているのも事実)
あとは、車の調子がどうとか、他愛ない話で暇をつぶし、四人ほぼ同時に寝た。
それから全員、東京に着くまで誰も目を覚まさなかった。
―――――――だが、羽田の言っていた、富士山のジンクスが後に思わぬ方向へ的中することを、彼らは
まだ、夢にも思ってなかった・・・・・・・・・。(寝てるけど)