雪割草
「これは申し訳ない。あなたが私どもの知り合いにあまりにも似ていたものでな。」
「そうどすか?うちと同じやなんて、いるんどすな?お会いしとおす。」
「できたらいいんですがな。」
その頃、早苗はどうにか気を取り直して状況把握をしていた。
鏡じゃなくて、芸妓さんがわたしにそっくりなんだ。
頭の整理をし、皆を見渡してみると、今度は助三郎が固まったままだった。
助三郎の様子に気づいた芸妓は、じっと見た後
「お客さん。昼過ぎに鼻緒をくれた…。」
その声に反応し、正気を取り戻した助三郎は
「あっ、貴女でしたか?では、これを落とされましたよね?」
と拾った袋を差し出した。
見るや否や、安心した表情で
「おおきに!命の次に大切な物なんどす。何度もすんまへん…」
と助三郎から手渡された袋を大事そうにしまった。
「あの…失礼ですが。中身を見てしまいました。」
一瞬驚いた表情を見せたが寂しそうに
「…変どすやろ?芸妓が懐剣なんて物騒なもの。」
「貴女は、いったい…」
「…すんまへん、御座敷しらけてしもて。」
話をはぐらかされた。
何かある。そう直感したのだろう、再び舞を見せようと立ち上がった芸妓に光圀が一言聞いた。
「すまんが、名前は?」
「へぇ、美雪ともうします。ほな、今後ともよろしゅうおたのもうします。」
それから一行は舞を堪能し、お座敷遊びを楽しみ、御馳走も食べ、宿に帰った。
夜、皆が寝静まった後、光圀は弥七とお銀を呼んだ。
「お銀、あの美雪さんが気になる。置き屋を調べておいてくれ。
弥七は彼女の身辺を。頼んだぞ。」