雪割草
やはり、身分が高かったか。
「本来だったら武家の娘だそうじゃ。兄もいて、同じ京に浪人として生活しているらしい。しかし、小さい時に別れ、名しかわからぬそうじゃ。」
「では、人に聞いて探せばよろしいのでは?」
肉親探しなら、楽な仕事だな。
「助さん、人探しが中心じゃ無いんだ。なんで茜さんが懐剣隠し持ってたかわかるか?」
そうか、そうすると…
「元は武士、兄は浪人、生き別れ…。仇討か何かですか?」
「そうじゃ。父親の仇をそれぞれで探っておる。兄は島原で、妹は祇園でじゃ。」
花街で狙うということは、其れ相応の身分の男が仇に違いない。
「それで、ご隠居は、仇討を手助けすると?」
「もちろん。困っておる人は助けんといかん。それにの、仇は悪者じゃ。ひっ捕らえんと被害者を増やすからの。そこで、お前さんらで仕事をやってほしい。」
「なにするんです?」
「肝心の仇は誰かを聞き出せなんだ。まずはお前さんら若い男二人で聞きだしてくれ。」
「お…口説いていいんですか?」
「バカか!お前は何を考えてる!」
「助さん最低ですよ!早苗にそっくりだからって手を出そうなんて!」
「手は出さん。ちょっといいことを…痛い!なんだよ格さん!」
太もものあたりを思いっきり抓られた。
「スケベ野郎に仕置きだ!手なんか出したらお前をぶった斬るからな!」
「おお、怖…。ご隠居、新助この怖い男ほっておいて風呂行きましょ。ね?」
「ふん!」
男どもがいなくなってから、早苗は急激な不安に襲われた。
その様子に気づき、由紀とお銀がよってきた。
「どうしたの?」
「戻る…。あのね、あの人って見た目だけなのかなって…。」
「早苗のってこと?」
「うん。わたしみたいな見かけででも好いてくれてるんだって最初はうれしかったんだけど。」
「みたいって早苗さん可愛いじゃない。新助さんも可愛いって言ってたでしょ?」
「見た目が上の子なんてこの世に山ほどいる。由紀もお銀さんもわたしなんかよりずっと綺麗。わたしなんか…。」
早苗の様子を見て驚いているお銀に由紀が言った。
「お銀さん、この子異常に自分の外見に自信無いんです。どうも助さんに子どもの時からふざけたことしか言われてなかったみたいで。」
これを聞き、深みにはまって行ってしまいそうな早苗をお銀は抱きしめた。
「かわいそうに…。あの野暮天鈍感男。針山にしてやろうかしら。…早苗さん、とにかくあの男の言うことは気にしないの。」
しかし、早苗の考えは悪い方に進んでいった。
「それに、同じ見た目なら、茜さんのほうがずっと上。おしとやかだし、可愛いし、女らしい。わたしみたいに男っぽくて変な性格じゃ、太刀打ちできない…。」
「やめなさい。そこまで自分を卑下したらダメよ。」
「そうよ。自身を持つの。あの人、早苗に結婚してくれって言ったんでしょ?好きだからよ。」
二人で早苗を元気づけようとしたが、とうとう泣き出した。
「…理由言われなかったもん。好きって言われたことないもん。婚約なんて脆いからすぐ解消できるもん。」
「泣かないで。いつか言ってくれるわ。少し待ってみなさい。」
「うん…。待てなかったら?」
「襲うの!どっちの意味でもいいから襲うのよ!」
「わかった…。ありがと。お銀さん、由紀。」
「…そろそろ変わりなさい。風呂から戻ってくるわ。」
「わかった。…目、腫れてないか?」
「えぇ。男前よ。格さん。」