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雪割草

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「だってさぁ、男同士なんて無理だし気持ちが悪い。皆の笑いもんだ。」


…無理? 気持ちが、悪い?


「それになぁ、ゴツイお前が白無垢なんか着たら、女装になって妙だ。
おまけに化粧なんかしたら気色悪いな。ハハハ!」


…妙?気色、悪い?




頭を木槌で殴られ、心の臓を射抜かれたかの様な錯覚にとらわれた。


建前じゃない。
これがこの人の本音。
わたしなんかやっぱり好いていてはくれなかった。
家格は低い、可愛くも何ともなかった。
好いてくれる条件が何も無かった。
唯一の砦だった女っていう条件が無くなった。
もう戻れない。男のまま。


確かに、こんな気持ちの悪いヤツいらない。いないほうが良い。
傍に居ても憎まれる、疎まれる。 
嫌がられる…。


もう、おしまい…。



何も考えられなくなった。



「ん?どうした?」

「…なんでもない。俺も、もう、寝る。」

「あぁ。お休み。格さん!」


ふらふらと部屋を出ると、お銀に声をかけられた。

「格さん?どうしたの?大丈夫?」

「何でも、ない。気に、するな…。」

「…早苗さん?」




知らない間に、風呂にいた。
ここで、改めて自分の身体を見た。

どこからどう見ても男。
女と言い張っても、もう意味はない。
格之進になったばかりのときよりも均衡のとれた締まった体つき。
女の視線から見れば理想的で格好いい。
でも、こんなの…。

湯船につかると、少し気持ちが落ち着いた。
しかし、目に入った水面に映る自分は男のままだった。


一生このままか…。
こんな身体だから、助三郎さまはもう二度とわたしを抱き締めてはくれない。
こっちから抱き締めたり抱きつくと嫌がった。
絶対に抱き返してはくれなかった。
さっきも言ってた、恥ずかしいからもう抱き締めるなって。

当たり前だよね、男なんだから。
気持ち悪いんだから…。


最後に早苗の姿で抱きしめてもらったの何時だろう?
やめよう…
余計悲しくなる。


はぁ…。
もうずっと自分の本当の声を聞いていない。
口調は元に戻せるようになったけどこの低い声じゃ…。
気持ち悪い。



無理だったんだ。半分男の女なんて。友達で許嫁なんて。
考えが甘かった。
なんで心の隅で期待なんかしてたんだろ…。
わかってたはずなのにああいうこと言われるって。
『そのままでも良い。』なんて夢みたいな事言ってくれるわけがないのに。


心のどこかで、まさかの事態を覚悟してたはずなのに。
結婚できない身体になったら、潔く身を引かなきゃいけないって。
なのに、全然できてなかった。
あの人の気持ちがわかって、一緒に過ごせて、舞い上がってたのがいけなかった。
ちやほやされて、天狗になっていた。
あの人の中にはわたししかいないって思いあがってた。
そんなこと、全部間違いだった。


でも、楽しかったな…。
二人で手をつないで歩いたっけ。
一緒にお出かけしたっけ。
うれしかったな…。
あれが最初で最後の逢い引きか…。


違う。あれはわたしの独りよがりの願望が幻覚になって見えてただけ。
幻。現実じゃない。全部ウソ。


でも、もっと抱きしめてもらいたかった。
チュって一回くらい口付してもらいたかった。
結婚して、死ぬまで助三郎さまと一緒に過ごしたかった。
あの人の赤ちゃん欲しかった…。

ダメ…もう全部無理。
わたしはもう、女じゃないんだから…。
何より、あの人とは何でもなかったんだから。


そうだ、辛くなる前に自分から離れよう。
向こうもすぐ喜んで離れてくれる。
わたしの事、気持ち悪くて、大嫌いなんだから…。

婚約もすぐに破棄してもらって、新しい娘探してもらおう。

わたしは、男に、渥美格之進になろう。
完全に身も心も男になって、仕事に生きよう。
きれいさっぱり女だった過去は捨て去ろう。

今までのことすべて忘れれば生きていける。
男のままでも何の苦痛もなく生きていける。



助さんはただの仕事仲間。
許嫁でも友達でもなんでもない。



早苗は今夜この場で、死んだ。
中身が女の格之進も、死んだ。




…俺は、男だ。
生まれた時から男の、渥美格之進だ。






早苗の様子を見ながら、隅の暗がりでニヤリと不気味に笑う者に、彼女はまだこの時気付かなかった。


作品名:雪割草 作家名:喜世