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雪割草

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辛い事ばかり、意味のない妄想ばかりしている。

「…早苗は居なくなったんだ。お前の主の、助さんの奥さんになる人に可愛がってもらえ
。いいな?」

「……。」
何かわからないという顔をしていた。
しかし、尻尾を振るのはやめた。

「ほら、行け。」

「……。」
なんとも悲しそうな目つきになった。

「…そんな眼で見ないでくれ。俺だって本当はお前と毎日遊びたかった。一緒に居たかった。」

何を思いついたのか、どこからか棒をくわえて持って来た。
必死に早苗の手に棒を置こうと努力するさまが健気で、可哀想で堪らなくなった。

「…わかってくれ。これで最後だからな。」

できるだけ遠くに投げた。
すぐに戻って来られないように。





クロが棒を持って戻ってくると、二番目に好きな主の姿はすでになかった。
代りに、一番好きな助三郎がやってきた。

「…どうしたクロ?遊びたかったか?」

「…クゥン。」
少し成長してピンと立った耳を、悲しそうに垂らし、頭を垂れてうなだれていた。

「…なにか悲しかったか?お腹減ったのか?」

「ワン!」
しかし、仔犬は思い付いたように一声吠えると、助三郎の着物の裾をくわえて引っ張り始めた。

「なんだ?」

「ワンワン!」
いつになく必死な仔犬に任せて歩いて行くと。クロと同じように項垂れている早苗がいた。
身体の調子でも悪いのかと心配になり、声をかけた。

「…格さん。」

「…何か用事か?」
聞くや否や、何事もなかったかのように普通に立っていた。

「…クロが引っ張って来たんだ。な?」

仔犬は得意げに、お座りして尻尾を振っていた。

「クロ、あっち行ってろ。」

「……。」
しかし、黙ったまま、飼い主を見つめていた。

「早く!あっちに行くんだ!」

大声で怒鳴られた途端、クロはビクッとなった。
しかし、動かなかったので早苗がにらむと、すごすごと尻尾を垂らし、その場を去って行った。

「可哀想だろ?それに、怒鳴らなくても…。」

「…知るか。…で、用事はなんだ?領収書なら早く出せ。」
しかし、そう言う早苗の顔はそっぽを向いていた。

「…そんなんじゃない。」

「…なら行くぞ。」

「待ってくれ。俺はただ、お前と一緒に居たいから…。」

「……。」

再び無視され、一人残された助三郎はどうしていいか分からず立ち尽くした。





早苗に怒鳴られたクロは庭の隅で小さくなっていた。
餌をやりに新助が来ても、いつものように喜んで走り寄って来なかった。

「クロ、どうした?食べたくないのかい?」

「…新助さん、クロどうしたの?」

「…格さんに怒鳴られたらしいですよ。それでショゲちゃったんじゃないですかね?」

「…可哀想に。…ねぇ、弥七さんに預けた方が良くないかしら。」

「どうしてです?」

「なんとなく、あの二人の近くにいない方が安全だと思うの。」

「そうですよね。おかしいですもんね二人とも…。」

「…ねぇ、新助さん、早苗がおかしいの、気付いてた?」

「はい。」

「何が起こってるのかしら?」

「調べたほうがいいですよね?」

「そうしましょ。ひとまず弥七さんにはお銀さん経由でクロのこと連絡するわ。」

「じゃあ、おいらは二人の様子観察しますね。」


作品名:雪割草 作家名:喜世