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雪割草

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廊下の柱に寄りかかって苦しそうな表情を浮かべていた。


「…格さん大丈夫ですか?」

「あぁ…何ともない。気にするな。」

「横になった方が…。」

「いい…。」

「寝られないんでしょう?」

見張っている弥七とお銀に話を聞いていた。
毎晩ろくに寝ずに徘徊しているらしい。

「…あぁ。」

「だったら、昼寝ならどうです?」

「仕事中に寝るなんてもっての他だ。」

「おいらが帳簿付やっておきます。ご隠居にも言いませんし、それなら良いでしょう?」

「…わかった。」

新助の提案をしぶしぶ受け入れ、布団には入らなかったが、壁にもたれ、仮眠をとった。


新助が帳簿をつけていると、助三郎がやってきた。
助三郎の相談も新助がほとんど引きうけていたからだ。

「…新助。ちょっと良いか?」

「…お静かに。格さん、休んでるんで。」

「わかった…。」



助三郎は怒鳴ってばかりの許嫁を眺めた。

ヤケにやつれている…。
どうしてこんなになってるんだ?
眠れてないのか?


居眠りし、力が抜けている手を見た。
大きい男の手だが、中身は早苗に変わりない。
そっとその手に触れようとしたがなぜか身体が動かなかった。


どうして身体が言うこと聞かない!?
早苗なんだ。これは俺の命より大切な許嫁なんだ。
格さんの時には平気で触れることができたのに。
なんでだ!?

しかし、身体は動かなかった。


俺はとんでもない男だ…。
嫌われて捨てられても当然かもしれん。

何もできない自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えた。
ただ、早苗が冷えて身体を壊さないようにと、着物を掛けてその場を去った。



しばらく何事もなく時間が過ぎていったが、早苗の様子が急変した。

「…イヤ!やめて!…助三郎さま。」

苦しそうに、うわごとを言い始めた。

「格さん!夢です!起きて!」

新助は必死になって早苗を悪夢から現実に呼び戻した。


「…新助さん?」
やっと目をあけ、つぶやいた。

「はい、大丈夫ですか?」

「…怖かった。何かわからない者に引きずりこまれたの。
もがいて助けを求めたら、あの人に突き落とされたの…。来るなって…。いなくなれって…。バカなヤツって笑われた…。」

口調が早苗さんに戻ってる。
なんで姿がついて来ないんだろ。
絶対戻れるはずなのに。

「大丈夫ですよ。何も心配は要りません。全部夢です。」

「……。」
やっと状況を把握したようだった。

「…格さん?」

「…すまん。忘れてくれ。さっきの事は絶対に誰にも言うな。」

再び男の口調に戻っていた。


無理してる…。なんでだろう?
男の振りをし続けている。

「…この着物、お前が?」

「いえ、助さんです。」
言うべきか迷ったが、一応本当のことを伝えた。

「しなくてもいいことを…。こんなこと、なんでするの?偽善だ…。建前だ…。」

着物を握りしめ、苦悶の表情を浮かべながらブツブツと自分に言い聞かせていた。

「…格さん?」

「…新助、俺が寝てる間にあいつを近寄らせるな。頼む。」

「…はい。」


よくは解らないけど、格さんは、助さんを嫌いにはなっていない。
まだ、好きでたまらないのに、わざと助さんを遠ざけようとしている。
それを助さんは全然わかってない。
怒って無視してるって思ってる。
毎日、『早苗、早苗』と呼んでるけど、あれが余計いけないのにわかっていない。
なんでこうなっちゃったんだろう?


そう言えば、戻れなくなった事を助さんに打ち明けるって言った次の日からおかしい。
あの晩笑ってた。でも、あれが笑ってるのを見た最後の日かも…。

もしかしたら、原因は助さんかな?
あの晩、何か言っちゃいけないこと言ったのかな?


作品名:雪割草 作家名:喜世