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雪割草

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「わたしが嫌い、憎い、疎ましい、女の子が好き、こんな気持ちの悪い男居なくなればいい。消えればいい!なんで呼ぶの?好きでもない女なんか捜すな!」

「…落ち着いて!早苗、しっかりして!」

様子がおかしい親友を正気に戻そうと必死に呼びかけたが、効果はなかった。

「イヤだ、偽善だ、邪魔者、気持ち悪い、同情なんかいらない、無理するんじゃない、俺には大事な仕事がある、仕事、家に帰るまでは…。」

もはや限界だった。
由紀一人では無理だった。

「お銀さん!早苗が…おかしい!!」

屋根裏で由紀の指図どおりに見張っていたお銀が降りてきた。

「早苗さん、聞こえる!?大丈夫!?」

「…早苗じゃない、女じゃない、格之進だ。男だ。俺は男だ…。近づくな、寄るな。その名前を呼ぶな、触れるな、あっちにいけ。来るな!!!」

「早苗!しっかりして!お願い!!」

しかし、何も聞こえていない様子の早苗はとうとう暴れはじめた。
その様子を今だ屋根裏で見ていた弥七は危機を感じ降りてきた。

「二人とも危ないから離れろ!」

「はい。」

弥七は暴れる早苗を交わし、急所に一発撃ち込み、気絶させ、眠り薬をかがせて横にさせた。

「一先ずこれで抑えておく。ずっと寝てねぇからな。眠り薬はきつめにしておいた。」

「可哀想に…このままじゃ危ないわ。いったい助さんは何してるの!?」

「…気付いてないんでしょうか?」





皆が不安がる中で早苗は、とんでもない悪夢を見ていた。






夢の中でも、早苗は男のままだった。

近寄ろうとした大好きな助三郎の隣には、早苗の天敵でこの世で一番嫌いな同郷の女、弥生がいた。

彼女はさもうれしそうに早苗に向って言った。
『惨めねぇ。男のままなんて。まぁ、それなりに男前でモテるから良いじゃない?
でも心配しないで、佐々木さまにはわたしがいるから。じゃあね。渥美さま。』

早苗は我慢できず、怒鳴り付けた。
『黙れ!ごう慢女!』

そうすると、弥生は早苗が毛嫌いしていた、人を見下した目で
『誰に向かって口きいてるの?忍の卑しい娘が!』
と吐き捨てた。

『くっ…。』

早苗が怒る様子を満足げに眺め、またも苛立つことを言った。
『あら、ごめんなさい。もう娘なんかじゃ無いわね。息子だったわ。ねぇ?佐々木さま。』

その女の目線の先には助三郎がいた。

『助さん…。』

縋る思で声をかけた。
わたしを見て、わたしに触れて。抱き締めて…。
早苗って、優しい声で呼んで…。


しかし返って来たのは冷たい視線と言葉だった。

『なんだ、まだお前いたのか?』

『早苗は?早苗はどうしたんだ?』

『あれか?邪魔だったんだよな。勢いで結婚しそうになってた。うっとおしいあいつが居なくなってくれたから、この娘と結婚できる。俺は幸せだ。』

そう言うと弥生と口付を交わした。
自分には一度もしてくれなかった。


『…ウソだ。ウソだろ?』

『お前なぁ、いい加減にしろよ。男色は趣味じゃないって言ったろ?あっち行けよ。』

『俺は女だ!』

そう言って彼にしがみつくと、思いっきり足蹴にされ、蔑んだ目で見られた。

『お前は男だ。いつまで女の子ごっこしてる?気持ち悪いんだよ!触るんじゃない!吐き気がする!』

『そんな…。』

『いいか、俺に二度と近寄るな!触れるな!わかったか!』

『イヤだ。俺は女だ。早苗だ!』

『…早く行けよ、早苗が何だ。あんなやつ要らないんだ。お前も邪魔なんだよ!』


『助三郎…。』

『げぇ、気持ち悪。俺の名前が穢れるだろ。本当うっとおしい奴だ。』

『しつこい男の人ってイヤよねぇ。』

『お前の言うとおりだ。…そうだ、お前に前からどうしても言いたかった事あったんだ。』

『…なんだ?』

少しは、優しこと言ってくれないかな?



『あの世に行ってくれないか?』

『…え?』

『今すぐ、俺の前から消えてくれ。この世からお前の痕跡をすべて消し去ってくれ。』

『……。』

『まぁ、そんなこと言っても、ダメだよなぁ。お前、いくじなしだもんな。女々しいもんな。無理か。ハハハ!』

『男のくせにいくじなし!そんなんじゃいくら見た目かっこよくてもお嫁さん来ないわよ!フフフ!』

『せいぜい生き恥さらしてろ。女々しい格之進殿。さて、弥生、行こうか。』

『はい。佐々木さま。』

『え…。』


さっき見せた氷のように冷たく無慈悲な表情が嘘のように、助三郎は弥生に向ってほほ笑んでいた。

『今からなにしたい?』

『着物を見立ててほしいわ。』

『わかった。とびきり綺麗で豪華なの買ってやろう。』

『ありがとう!佐々木さま大好き!』

『可愛いなぁ。』


幸せな様子を見せつけながら、一度も早苗の方を振り向くことはせず、二人は遠ざかって行った。
かつて自分に向けられた優しい笑顔は、すでに別の女の物だった。


『…イヤだぁぁ!!!助三郎!!!』




そこで、眼が覚めた。
目の前には、人ではない者が満足気に笑っていた。

『 ツライ カ? クルシイ カ? アイツ ハ オマエ ヲ ソウ オモッテ イル ワカッタ カ? 』

わかってる。
そんなことわかりきったこと。
あいつは俺が嫌いだ。憎んでいるんだ。
邪魔ものなんだ…。

そう自分に言い聞かせたあと、睡眠薬に誘われて早苗は再び眠りについた。




人でない者は、早苗を取り囲み不気味に笑った。

『 コレデ モウ ジュウブン ダロウ コイツハ ジキ ナカマニナル 』

『 ハヤク ハヤク イッコクモ ハヤク 』







その頃、弥七は光圀に早苗について報告していた。

「…弥七、どう思う?」

「…おそらく、助さんが使っちゃならない恐ろしい武器を無意識のうちに早苗さんに使っちまったんでしょう。」

「…どういうことじゃ?」

「人間が人間に使う一番恐ろしい武器は何かご存知ですか?」

「刀か?」

「いいえ、言葉です。」


「…では、原因は助三郎か?」

「へい。間違いないかと。おかしくなる前の晩、助さんが置手紙を見つけた前の晩ですが、虚ろな感じで歩いている早苗さんをお銀が見たそうで。」

「虚ろな様子か…。」


「早苗さんは板挟みになってるんじゃねいですか?」

「そうか、あれは武家の娘じゃ。男のまま戻れなんだら、身を引こうと思っておるだろうな。」

「へい。」

「じゃが、別に男のふりをして避けずとも良いのでは?まだ戻れないとも決まったわけではないしの。」

「おそらく、その晩に助さんが何か人間を否定するようなことでも言って早苗さんを深く傷つけちまったんでしょう。
助さん、鈍感ですから全く分かってなかった。皮肉なことに今もよくわかってない。」

「…そうか。許嫁の異変に二月近く気付いておらなんだ。まだ早苗が怒ってると思いこんでおる。」


「早苗さんは、混乱してるんじゃないですかね?」

「どういう風に?」

「結婚はできなくなった。助さんのことを好きな気持はまだ有り余ってるが、向こうが拒絶した。自分は身を引いたのに、向こうは今まで通り接してくる。
だが、相手が求めているのは女の姿。とんでもないごちゃごちゃですよ。」
作品名:雪割草 作家名:喜世