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雪割草

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話し方は幾分穏やかだったが、避けていることには変わりがない。
仕方なくその場に腰かけたが、納得がいかなかった。

「で、なんだ話って?」

「…別れを言いに来た。」

「…どういうことだ?」

「…これから発つ。」

「どこへ行く気だ?こんな夜になってから…。」

「誰も絶対に追いかけて来られない遠い所だ。もう二度と戻っては来ない。」

「まさか!?」

いやな予感がした。



予想通り、鞘から刀を引き抜く音がした。



早苗は自分の女の持ち物をすべて処分したが、懐剣だけはとっておいた。
一度も抜いたことがない鋭利な懐剣は、切味も抜群なはず…。


「…鈍感なのに良くわかったな。後始末面倒だが頼む。
俺はこの世に元からいなかった男だ。藩には何も言わなくていい。
仕事途中でほっぽりだしてすまんな。今日までの帳簿と日誌は済ませておいた。
明日からは任せる。それと、ご隠居と由紀さんを頼む。」

「…何で?どうして?」

「…終わるまで来るんじゃないぞ。」

「やめろ!やめてくれ!」

助三郎は居てもたってもいられず行こうとした。

「止めるな!来るんじゃない!座ってろ!」

「……。」

「…短い間だったが一緒にいられて楽しかった。いろいろ学べた。ありがとな。
だが、謝っておく。
もっと早く俺がいなくなればお前をおかしくしないで済んだ…。
こんな気持ちの悪い男が近くにいたらおかしくなるはずだよな?
お前を庇って斬られたときに潔く死んでればよかったな。
…とにかく、俺の存在をきれいさっぱり忘れてくれ。
こんなみっともない男のなりそこない、死に損ないがお前の側にいたなんて
水戸藩佐々木家の恥だ。」


「お願いだ、早まるな!落ち着くんだ。」

「止めるな。もう行く。…最後に言いたいことがあるが、聞かなくていい。気持ち悪いからな。」

助三郎はその言葉を聞かず、耳をすませた。
話し始めた早苗の言葉に驚いた。


「…もう姿を現さないと言ったのに出てきたのをお許しください。
もう男なのに、心が女の、貴方が嫌いな早苗のままで、嫌がられたのに…。
女の心を抹殺しようと、男になろうと精一杯努力はしました。」

久しぶりに聞いた早苗の口調。
声が格之進だが早苗に間違いない。
でも、こんなこと聞きたくはない!

「本当の男になって貴方への一方的な邪な想いを忘れようとしましたが、無理でした。
弱いわたしのせいで、貴方をおかしくしただけだった。
死ぬのが怖くて、意気地がなくて、男のままで生きながらえようと思いましたが、あなたの迷惑になっただけ…。
でも、やっと死ぬのが怖くなくなったので、今からあの世に行きます。
これで、あなたは苦痛から、悪夢から解放される。幸せな人生を送ることができる。
私事ですが、この世に未練はありません。なので、死んでも、あなたの大嫌いな幽霊にはなりません。生きてるうちも苦しめた上、死して後も貴方を苦しめるのは忍びない…。
わたしは地獄へ行くので、将来極楽へ行く貴方とはお会いすることもないでしょう。
安心してください。早いうちに良いお相手を見つけ、必ず幸せになってください。
では、さようなら…。」






「馬鹿者!やめろ!!!」

胸に突き立てようとした刀が動かなくなった。
気付くと、助三郎が、腕を引っ掴んで止めていた。

「来るなって言ったでしょ!?離して!」

「お前に刀は無理だ!」

渾身の力で刀を奪われ、手の届かないところへ投げ捨てられた。



助三郎はその瞬間、周りの空気がざわっとしたのを感じた。
それに過剰に早苗が反応した。

「置いてかないで!今行くから、連れてってくれ!こんなところにいたくない!」

「…何言ってる?」

「今行くから!今行くから待ってくれ!」

「なにもいない!何を見てる!?しっかりしろ!」

腕を掴む力を強めた。

「……。」

「早苗?」

「…離せ!俺に触れるな!!!」

血走った眼の凄い形相で睨まれ、驚き、つい手を放してしまった。
しかし、早苗がふらふらと歩きだした行く手には、さっき投げた刀が妖しく光っていた。


「ダメだ、早苗!行くんじゃない!!!」

手が再び早苗に向かって延びていた。









気がついた由紀はお銀が止めるのを振り切り泣きながら光圀のもとへ向かった。

「ご隠居さま!早苗が、早苗が…。」

「落ち着きなさい。大丈夫じゃ。心配せんでもよい。」

「え?」

「弥七が見張っておる。絶対死なせはしない。」

「はい…。」

気が抜けた由紀は。へたへたと座り込んだ。
追いかけてきたお銀が彼女を助け起こした。

「由紀さん、もう休みましょう。寝られないなら一緒に寝てあげるから。」

「はい…お銀さん…。」

お銀に連れられ、由紀は寝所に戻った。


「新助も、寝なさい。心配はいらん。」

「本当ですか?」

彼は早苗を止められなかったと、大泣きしながら光圀に詫び続けていた。
しかし、説得され寝所に戻って行った。



一人になった光圀の元に、弥七がやってきた。

「どうじゃ?」

「自害寸前の早苗さんを助さんが一応は止めましたが、まだ安全とは言えませんね。」

「弥七、引き続き見張りを頼むぞ。絶対に死なせるな。」

「へい。わかりやした。」



「…助三郎。すべてはお前さんの手にかかっておる。大切な女一人守れんような男はワシの部下には要らん。絶対に、助けるのじゃ。」


作品名:雪割草 作家名:喜世