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雪割草

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早苗もしっかり抱きついてきて、しばらく家の前で甘い雰囲気に浸っていたが、早苗の母のふくに見つかり、激怒され走って逃げた。

「わたしに何の用事?」

「実はな、妹が格之進は早苗だって信じない。…危険な事に格さんに惚れそうだ。」

「えっ?千鶴ちゃんが?」

「だからついでに母上にも話す。いいな?」

「うん。」



佐々木家上がり、姑になる美佳と義妹の千鶴に挨拶をした。

「こんにちは、ご無沙汰でした。」

「義姉上!心配しました。姿が見えなかったので。」

「本当に良かった。結納がじきに有ります。よろしくお願いしますね。お父上によろしくと。」

優しい義母と義妹に早苗はほっとした。

「はい。義母上さま。クロもよろしくお願いします。クロ。可愛がってもらうのよ!」

「ウワン!」

おやつをかじりながら仔犬がどこかで吠えた。


ここで助三郎が本題に入った。

「母上、千鶴。早苗のことで話しておきたい事が有ります。早苗がいなかった理由ですが、私とご老公様のお供をしていたからです。」

言ったとたん、母と妹はぽかんとしていた。

「お供は貴方と渥美様のはず…。」

「兄上また何を言ってるのですか?」

「だから…。」

尚も説明しようと試みた助三郎を制し、早苗が直接示すこととなった。

「義母上さま、千鶴ちゃん…わたしが渥美格之進です。」

「…え?早苗さん?」

「…義姉上?」

「驚かないでくださいね。…こういう事です。」

そう言うと、二人の眼の前で男に変わった。

「早苗さん!?」

「義姉上が男の人に!?」

やはり二人とも大いに驚いた。
目の前の娘が大きな男に変わって驚かない方がおかしい。


「千鶴、お前が見たのこいつだろ?」

「はい、確かに。」

「千鶴ちゃん、格之進の正体は早苗だ。こんな変な義姉だけど、いいかな?」

「はい!構いません!こんなに格好いい義兄上が出来て嬉しいです!」

せっかく、幻滅させてやろうと思った矢先のこの言葉に助三郎はうろたえた。

「おい!俺は格好悪いってのか?」

「はい。ふざけてばっかで鈍感でドジで格好悪い…。」

散々なイヤミを言われ、助三郎は撃沈した。

「……。」

「気にするな俺はお前が一番かっこいいって思ってるから。」

「本当か?格さん?」

「ああ。助さん。」



早苗は、ずっと驚きっぱなしの美佳に気がついた。

「あの、義母上?」

「…本当に早苗さん?」

「はい。」

「助三郎が迷惑かけたでしょう?ごめんなさいね。」

「いえ、ずいぶん助けられました。命も救っていただきましたし。」

「そうですか。それならば…。助三郎、変なことしたんじゃないでしょうね?」

「してません!母上まで私を疑いますか?」

「まぁ、よろしい。」


助三郎がこれ以上いじめられるのはかわいそうなので早苗は女に戻った。

「…千鶴ちゃん。また来るね。」

「はい義姉上。」

「義母上さま、失礼いたします。」

「お気をつけて。助三郎、送ってあげるのですよ。」







その日から十日後、早苗の兄平太郎と江戸の旗本の娘、優希枝《ゆきえ》の祝言が行われた。
彼女は又兵衛の話通り本当にお嬢様だった。
にこやかに早苗にあいさつし、格之進にも驚くことなく平然と弟と認めた。

早苗は平太郎に頼みこんで、祝言から数日後のある晩、優希枝と二人で夜通しおしゃべりして過ごした。
お嬢様で話が合わないと父に言われたが、嫁入り道具を見せてもらったり、
幼いころの話を話し合って、盛り上がった。


また、早苗と助三郎の結納が行われ、祝言の日取りが決められた。
幸せいっぱいの二人だったが、なぜかその後祝言まで会うことを一切禁じられた。
早苗は外出も厳禁で、家の中で花嫁修業に縛り付けられた。

また、例のくせのせいで、毎朝男で起きてきたことを母にとがめられ、
たらたらと説教をされ、嫌気がさした。
何度か抜け出そうとしたが、そのつど見つかってこっぴどく怒られ、より厳しい修行を課せられた。

そんな早苗を義姉の優希枝が優しく助けてくれた。

結婚後数日たつと、母のふくは鬼姑と化していた。
お嬢様のせいで仕事の速度が遅いと叱り、何を言っても笑っているとイヤミを言い続けていた。
しかし、あまりに激しさを増していった結果、滅多に怒らない又兵衛が烈火のごとく怒り、息子の平太郎は妻を必死に庇い、早苗も義姉を好いていたことから猛反発したので、ふくの負けとなった。
それから一切イヤミは言わなくなった。

しかし、優希枝はその状況に甘んじることなく必死に努力をしていた。
早苗と一緒に花嫁修行をやってくれ、自身の経験も話して助言をくれた。
そんな彼女に勇気をもらい、早苗は必死に修行に耐えた。

祝言の当日、助三郎に会えることを目標にして。




そんなこんなで祝言の三日前になった。
出来上がってきた早苗の為の白無垢が部屋の隅に飾られた。

…真っ白。
でも、あんな死装束とは全然違う。絹で手触りが上品。
由紀も、義姉上もすごく似合った。
わたしは、似合うかな?
助三郎さま、喜んでくれるかな?
…早く逢いたい。

さまざまな思いでとともに助三郎を思い起こしているうちに、ふと記憶が蘇ってきた。

そういえば、あの人との約束があった。
少しの時間だけなら大丈夫…。
母上は外出中。
今だ。


早苗は外出の支度を急いだ。


作品名:雪割草 作家名:喜世