雪割草
この旅が終わったら「渥美格之進」の存在は無くなる。
その時助三郎さまはどう思うのかな。
帰ってから「実はわたしでした。ハハハ…」なんて言ってしまえば傷つけるし、
騙していたことになる。
たとえ打ち明けずに隠し続けていても、裏切りになる。
今まで考えても見なかった。
バレてあの人の仕事の邪魔になるんじゃないかってことだけが怖かった。
助三郎さまに『格之進』という一人の男として、友として思われるなんて考えもしなかった。
これ以上深入りしたらいけないのかな?
でも、適当にあしらったらあの人がかわいそう…。
いっそ打ち明ける?
…ダメ。仕事に集中できなくなる。
それに、気持ち悪いって思われる可能性がある…。
普通なら女が男に化けるなんてありえない…。
見た目も話し方もすべてが男だから余計…。
それとも、騙していたって怒るかな…。嫌われる?。
ただでさえ不安定な状態の婚約も破棄されるかも…。
捨てられる?。
どうしよう…。どうすればいいの?
早苗の心の奥底に悩みと不安が生まれた。