雪割草
「…ちっ。誰だ密告したやつは。お奉行様、私ではありません。下手人は捕まえて牢に入れました。私の手柄です。」
「嘘を言うでないわ!」
「そうですよ。お奉行様のおっしゃる通り。」
「なんだと!?」
「貴方が春日大社の使いを殺めようとするところを供の者が見ました。しかもその罪を真面目なお役人になすりつける現場も。」
「なんだと!?このじじいが!」
「これ、お年寄りに口を慎め!」
「…黙れ、奉行。」
「なんだと?誰に向って口を聞いておる!?」
「お前だ、馬鹿奉行!早く俺に跡目を継がせればいいものを!いい機会だこの場で葬ってやろう。」
「血迷ったか!やはり縁を切って正解だったな!」
「助さん、格さん。この大バカ者を懲らしめてやりなさい!」
敵なのか味方なのか分からない乱闘が続いた。
奉行方の侍と馬鹿息子方の侍が入り乱れとんでもない混乱だった。
早苗は必死に殺さないよう、最低限の怪我で済むよう闘った。
ふと助三郎を見ると異常なほど荒々しく刀を振るっていた。
しかし美しい剣さばきですべて峰打ち、一切斬りつけることなく敵を見分け倒していた。
一段落つけ、混乱を収めた。
光圀の正体を知った下手人の馬鹿息子は青ざめ、おめおめと義理の父親の奉行に助けを請うた。
「義父上、お助けください。」
「何をいっておる?下手人が。」
「義父上…。」
「都合のいい時だけ息子面をしおって。さっき言ったであろう、縁はもう切れておる。お前がほっつき歩いてるあいだにお前の母親と離縁した。
すでにお前は息子でもなんでもない!…切腹申しつける!」
「真之介。迷惑をかけた。今後とも励め。」
「はは。ありがたきお言葉。」
「よかったの、真之介。」
「ご隠居様…御老公様とは知らず。ご無礼つかまつりました。お供の方にはお世話になりました。」
「よいよい。みな無事で何より。鹿も無事で何より。はっはっはっは。」