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雪割草

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「いいじゃないですか。ハハハハ!…まぁ格さん飲めよ。」

注いでもらった酒を口にしたら喉が焼けつくような感じがした。

「この酒なんだ?えらく強い気がする…。」

「蝮酒じゃ。」

「蝮?マムシって蛇ですか?」

「そうだ。ほら、中に浸かってるだろ?」

壺の中で蛇がとぐろを巻いていた。

「げっ。死んでるよな?…ご隠居、スッポンやら蝮やら、何がしたいのです?」
なんか気持ちの悪い物ばかり。
動物好きだけど、蛇や亀はあんまり…

「じきに紀州。助さんは病み上がりじゃ。皆も疲れが出てきた。あそこで何があるかわからぬからの。襲われたときに対処できる体力をつけるのじゃ。」

「効くんですか?こんな気持ちの悪い物…。なんかこいつら可哀想だな…。」

「可哀想か?まぁ、人間には必要な犠牲じゃ。ありがたく頂こう。
あとはの、上様への当てつけじゃ。生類憐みの令に引っ掛かるからの!ハッハッハッハ!」

趣味が悪い。
さすが昔グレてた噂の高い御老公さまだわ。

酒が強いせいで光圀、助三郎、新助はベロベロになり始めた。
今だ平然と酒を飲めるのは早苗と弥七だけになっていた。

ひっそりと何も話さず酒を飲む弥七さんは渋くて何となく格好良い。
父上よりは若そうだけど、いつも落ち着いているから年上に見える。

「弥七、酒強いな?」

「そういう格さんも相当ですよ。普通の男がこんなに酔ってるのに…。」

見ると、完全に男三人は出来上がっていびきを立て寝てしまっていた。

「あぁ。つぶれちゃったな。面倒なことで。」


「格さん、心配事ですかい?」

「…顔に出てるか?」

「何となくですがね。」

「…このまま助さんに正体を隠し続けてだましてていいのか、でもバレたらどんな顔されるかわからなくて…怖いんだ。」

由紀にも相談した。お銀さんにも。
男の人はどう思うのかな?

「心配いりやせん、助さんは小さな人間じゃありやせんぜ。いつもふざけているように見えますが、根は真面目です。受け入れて、理解してくれるでしょう。」

「そうかな。」

「どうも思いつめる性質みたいだな。バレたらバレた時のこと。隠し通すのが辛くなったら打ち明けて楽になったほうが格さんのためですぜ。」

「ありがとう、弥七。」

「では、格さん。ここで失礼しますよ。おやすみなさい。また何かあったら呼んでくださいよ。」

「またな。」


寝転がっている男どもに布団を掛け、酔いを醒ますため、外に出た。



「早苗、体力ついた?」

「由紀?寝てなかったのか?…あんなので効くのかな?」

「マムシはすごいらしいわよ。スッポンもね。どうなのあの後?」

「は?なんなんだ?どうもないが。」

いったい何なの?
ただ疲れが取れるんじゃないの?

「なんだ。つまらない。…とにかく、身体に気をつけてね。そろそろ紀州だから。」

どことなく不安な表情が見えた。

「ちょっといい?」

「大丈夫?こんなところで戻って?」

「助さんも新助さんも泥酔してる。起きないわ。」

「…早苗、お酒臭いわよ。」

「ごめん…で、由紀大丈夫?」

「うん…。」

「何かあったら言って。聞くから。」

「じゃあ。今晩一緒に寝よ。おじゃべりしながら。」

「いいわね。女の子同士で!」






朝、お銀の声が耳元で聞こえた。

「起きなさい!二人とも!」

「眠い…」

「まだダメ…」

「早く起きなさい!」

ぼやける目にお銀の焦った顔が映った。

「…ん?お銀?どうした?」

あれ?わたし昨日女のままで寝たはずなのに。
声が低い…
げ…身体が男だ…変わってる。

「イヤ!なんで格さんなの!?」

隣に寝ていた由紀も目を覚ましたらしく。盛大に叫んでいた。

「イヤとはなんだ?」

「初めて寝る男の人は与兵衛さまって思ってたのに!」

「俺は男じゃないから別にいいだろ。」

「その身体でよく言うわ。また筋肉付いたくせに!」

「憶測で物を言うな!見てもないくせに。」

「あ。見せたいの?見てあげましょうか?」

「変態!女のくせにスケベ!」

「スケベじゃないわよ!」

「いいから、格さん。男どもが起きる前に出ていきなさい。変な誤解はない方がいい。」


お銀の心配は無用だった。
男三人は頭痛に悩まされ、昨晩と同じ場所に転がっていた。

「意味ないじゃないですか!二日酔いになったら!」

「格さん、大声出すな。頭に響くではないか…。」

「静かにしてくださいよ。うぇ…。」

「知りません!もう、今日は出立する日ですよ!早く起きる!」

「なんでお前はそんなに元気なんだ?…うへぇ。」

「お前とは違うからな。さぁ。ピシッとする!」


支度を早々に切り上げ、出立することになった。
真之介と赤ちゃんを抱いた瀬名、母親が見送りに来てくれた。

「長居してしまい大変ご迷惑おかけしました。」

「いえ、皆様に助けていただいて頭が上がりません。」

「主の代わりにお礼を言わせてもらいます。すみませんね。あんな状態なものですから。」

まだ頭が痛いらしく近くの丸太に座り込んでいた。

「あの、この薬、頭痛や二日酔いに効くので使ってください。」

「ありがとうございます。何から何まですみません。」

「また近くに来たらよってくださいね。」

「はい。ぜひ。では、これにて失礼します。」


良い人たちだった。
中の良い夫婦だったな。
かわいい赤ちゃんがいて、笑顔で過ごせる家族っていいなぁ。
ああいうのが理想だな。

ふと助三郎を見るとふらふらと歩いていた。
その姿に今回で何度目かわからないが、幻滅した。

はぁ。こんな二日酔いでよろよろしてるのがあの、かっこいい剣豪の佐々木助三郎だなんて思いたくないわ。


作品名:雪割草 作家名:喜世