雪割草
茶室は狭くて密談にはもってこい。屋根裏もその分狭いが、天井が落ちてしまう心配はないのでちょうどよい。
覗くと、家老と腹心が密談をし始めた。
「…屋の娘がダメになった?」
「どこかの男と付き合っていたそうですが、それにふられて落ち込んでしまい男はイヤだと言って親を困らせているそうです。」
「わがままな馬鹿な娘だな。して、ほかの手立ては考えておるのか?」
「今度は若君の母親をだしに使おうかと。おびき寄せて、ブスリと。」
「ほう、それはいいかも知れん。やはり女で堕落させるなどと甘っちょろいのはいかんのだ。消し去ってしまわないとな。
しかし、もはや失敗は許されんぞ。」
「申し訳ございません。」
「この前は誘拐しようとしたが邪魔された。その前は狩りの最中の事故死にしようとしたが失敗した。
一体どうなっておるのだ?失敗ばかりではないか?」
「それが…」
「なに?殿の密偵が?」
「それに加え、先ほど入った知らせでは…」
「水戸の御老公様が紀州に入ったと?邪魔なやつが来たものだ。知られないように葬ってしまうしかないな。」
「道中で賊に襲われておだぶつ、ということでございますね?」
「そうじゃ、もしも城になど上がったらその時が命日になろう。はっはっは。」
一通り聞きたい情報を得た三人は屋根裏から出て、帰途についた。
「二人とも、良くできました。あれで問題はありません。助さんにちょっとお聞きしたいんですが武術がお得意ですか?」
「剣を一応。」
「やはり。人を目で斬るような感じがたまにですが出ています。町人の格好の時は注意した方がいいですね。」
「わかりました。注意しますね。」
「格さんは、だいたいは大丈夫ですね。もっと仕込めばこの稼業のいい人材になる。」
やっぱり先祖の忍びの血かな。
「では、早く帰って早めに対策を立てないといけませんね。御老公様と若君が危ない。」