雪割草
「頼職殿には何の落ち度もない。今まで通り過ごされよと伝えておいてくれ。」
「御老公様。大変ご迷惑をおかけしました。御老公様に助けていただいた命、大切に使っていきたいと思います。」
「よい心がけじゃ。その言葉通り、しっかり生きてひとかどの男になりなさい。」
「は!」
「いかん…若君とばかり呼んでおってお前さんの名前を聞くのを忘れておった。なんだったかの?」
「御老公、格好良かったのに台無しだな。」
「惜しいな。あとちょっとだったのに。」
「は?…新之助と申します。」
「新之助殿、よく覚えておくぞ。」
この新之助こそ、兄二人が相次いで亡くなった後、五代目紀州藩主になり、
徳川幕府八代将軍に上り詰めた徳川吉宗、その人である。
これにて一行の旅の目的、紀州のゴタゴタの解決への旅、一件落着。