素敵なホワイトデー
……。
ゴホッ……ゴホッ……。
……。
ううう……ダルい……。
体が重い……。気分が悪い……。
ああ……、なんということだろう……。
魔人族の生き残りであるこのわたしが……あろうことか……。
数日後、わたしは高熱を発してしまった。
どうやら――インフルエンザを発症してしまったらしい……。
なんということだ……人間が侵される病魔に、このわたしがまんまとやられてしまうとは……。
はっきり言って、情けない。
「ギド、大丈夫かい?」
主(あるじ)が心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
わたしは精一杯平静を装ったが、さすがに四十度近くも熱があるとそうもいかない。
それでもわたしは、ぜいぜいと喉を鳴らしながらのったりと頷いた。
主は少し安心したような面持ちでにっこりとほほ笑んだ。
「セネカがお見舞いに来ているんだ。君に会いたいって」
……。
え? えええっ!!?? か、彼女がわたしのために、お見舞いに来てくれたというのか!?
わたしは寝床に横たわったまま飛び上るほど驚いた。
はたして彼女はすぐにわたしのところにやって来た。
学校帰りらしく彼女は制服姿のままで、「元気が出るように」と、道端で摘んできたというタンポポを花束にして携えている。
見たところ至って元気そうだ。
インフルエンザもすっかり完治したと見える。よかった、よかった。
彼女はわたしの際にひざまずくと顔を曇らせながら申し訳なさそうに言った。
「ごめんよ……おいらの風邪をうつしちゃったみたいで……」
なんと! そんな事を気にしてわざわざわたしを見舞ってくれたというのか!?
ああ、なんて心の優しい子なのだろう。
自分のせいでわたしがインフルエンザに侵されてしまったのだと気に病んで、そうして心配して来てくれたとは……。
病魔に倒れたのは日頃の体調管理を怠ったためでもある。
彼女が気に病む必要は全くない。
それなのに……。
わたしは感激のあまり目頭が熱くなり、三つの目が揃って潤んだ。
彼女はタンポポの花束を花瓶に挿すと、ちゃぶ台の上に飾った。
そうして、薬は飲んだのかとか、喉は乾いてないかとか、かいがいしくあれこれたずねた後――わたしの額にのせてあった濡れた巾(きれ)を取り換えてからこう言った。
「そうだ。お腹、すいてないかい? 早く良くなるように、おいら何か作るよ!」
すばやく立ち上がるや、彼女がいそいそと台所へと向かった。
台所では主が夕餉の支度にとりかかっているところだ。
……。
ははん。
そうか。
ふむ……なるほど。
この瞬間、わたしは全てを察してしまった。
いやしかし、なんとまあ、いじらしい。
落胆するどころか、わたしは思わずこっそり笑ってしまった。
そうとも。ここは一つ、潔く、わたしはダシになろうではないか。
きっと、あと半時もすれば卵入りの美味しいお粥の煮える匂いが漂ってくるはずだ。
それまではしばし、こうやって目をつむって、向こうから聞こえてくる二人の楽しげな語らいに耳を傾けるとしよう。
楽しい催しであるホワイトデーに、とんだオマケが付いてしまったが、これもまた良しである。
ハッピーホワイトデー♪