二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

千日紅

INDEX|24ページ/24ページ|

前のページ
 

これで今日一日、光圀の「大日本史」編纂は全く進まないことは明らかだった。

「みんな、弱いな…」

最後の一杯をあおると、お銀が現れた。

「本当に強いわねぇ。国一番じゃない?」

今まで、飲み比べなどしたことがなかった。
助三郎は酒好きでよく飲むが、弱くてすぐに潰れる。
そんな夫相手にできるわけがない。

しかし、酒が強い父又兵衛と、それよりさらに強い母ふくとの間の子どもの早苗は本当に強かった。
生まれて初めて浴びるように酒を飲んだが、意識ははっきりしていた。

「お銀。見てたのか?」

「もちろん。弥七さんもね」

そういうと、屋根裏から弥七が現れた。

「格さん、そこまで飲める男はそうはいねぇ。あっぱれだ」

「弥七……そんな褒め言葉要らない」


早苗は、潰れた男どもを踏まないように歩き、主光圀を探した。
しかし、彼もまた酔い潰れあられもない恰好で寝転がっていた。

「御老公、しっかりしてください」

「……もう飲めん。もう要らん」

「……御老公」

光圀は起きなかった。
どうしようか迷った早苗だったが、弥七の言葉で家に帰ることを決めた。

「格さん、ここはあっしとお銀でどうにかする。早いとこ家に帰んなさい。大事な人が待ってますぜ」

「あ、そうだ……悪い、頼むな」


気付けば後二三日で出立の日だった。
一時でも、夫と離れていたくはなかった。
ずっと一緒にいようと約束していたにもかかわらず、無益な飲み比べで家を空けてしまった。

「……飲みすぎたな」

身体を動かしたことによって酒が回りはじめた。
ものすごい量の酒を飲んだ早苗は、さすがに二日酔いで、少しばかりふらついていた。
しかし、何事もなく家に辿り着くとまっ先に寝室へ向かった。

どっちにしろ、仕事は休み。
昼まで寝ても怒られはしない。
夫と同じ布団でずっと寝転がっていたい気分だった。

「美帆。悪い、遅くなった」

しかし、彼が居るはずの布団はもぬけの殻だった。
ギョッとして布団の中に手をいれると、冷たかった。
ずいぶん前に抜け出た証拠。
なぜか不安に駆られた早苗は助三郎を探し始めた。

「どこ行った?美帆?」

寝ている家族を起こさないように、慎重に探しまわった。
助三郎の男物の着物をしまってある部屋に向かった。
その部屋には、なぜか今まで助三郎が着ていた女物の寝巻と帯が落ちていた。

「……美帆?」

着物だけ残して姿を消した。
この異常さを目の当たりにし、恐ろしくなった早苗はすぐさま屋敷中を総動員で探そうと
思い立ち、部屋を後にしようとした。
しかし、声をかけられ足は止まった。


「美帆を探してももう居ない。帰ったぞ」

それは、聞き覚えのある懐かしい声だった。

「………」

声の主は笑いながら言った。

「お前の二日酔い初めて見たな」

その声は間違いなく、会いたくて会いたくてたまらなかった人の声だった。
姿が見たくなった早苗は、声の主を呼んだ。

「……助三郎?本当にお前か?」

「他の誰だ?」

そう言うとともに、声の主が姿を現した。
早苗はすぐさま女に戻り、名を再び呼んだ。

「……助三郎さま?」

「そうだ。助三郎だ」

その言葉に居ても立ってもいられなくなり、早苗は彼の胸に飛び込んで行った。
しっかり抱え込まれ、ギュッと抱き締められた。

「ただいま、早苗」

「助三郎さま!」

助三郎は早苗が縫った着物を身にまとっていた。
逢えずに苦しんだ時、抱きしめて涙で濡らした着物だった。
今度は、嬉し泣きの涙で濡らした。

泣き始めた早苗を助三郎は再び抱きしめた。

「早苗。俺はもうどこにも行かない」

「約束ね。ずっと、側に居てね」

そして、旅に出る前にされてからずっとお預けだった、夫からの口付を早苗は受けた。
しかし、続いて彼の口から出たのは何の魅力もない言葉だった。

「酒臭いな。いったいどんだけ飲んだんだ?」

「わからない。気づいたらみんな潰れてたから…」

「そんなに飲んで、吐くんじゃないぞ」

「貴方みたいに弱くないから大丈夫!」


二人で笑いあった後、またじっと見つめあった。
早苗の目の前に有るのは、男の夫の顔だった。

「どうだ? 男前か?」

「うん。良い男。この世で一番いい男!」

「そうだ。俺は男だ! 可愛くなんかない! 二度と女なんかにならないぞ」

「なんで? もったいない」

「いやだ。二度とならない!」

「わかった。男のままで居てね。助三郎さま」


再び抱きしめあっていると、助三郎は恥ずかしげにつぶやいた。

「……なぁ、あの約束、どうする?」

女になる前の晩に約束した夜のお誘い。
果たせないままだった。
早苗は即答した。

「今晩がいい」

「わかった。今晩な。……やっと早苗と過ごせるな」

「うん。あとちょっとしかないけど」

「残念だな。もっと早く戻りたかった」

「仕方ないわ。少し我慢して、向こうで逢い引きしましょ」

「伊勢で?」

「うん。美味しいもの食べて。温泉入って。いろいろしましょ」

「楽しみだ。御老公には内緒でな」

「うん。……ねぇ、さっきから思ってたんだけど」

「どうした?」

「ちょっと筋肉落ちちゃったんじゃない?」

「そうかもな……全然鍛練してないからな。もう一回鍛え直しだ。
格さんに手伝ってもらわないと」

「今度は男同士ね。助さん」

「あぁ、格さん」


夫婦は久しぶりの再会を喜び、誰よりも愛する、夫、妻の存在を肌で実感していた。



そこへ、美佳がやってきた。

「早苗さん? 早苗…… あら、助三郎元に戻ったのですか?」

「はい。母上」

千鶴も起きだし、笑顔で二人をみつめた。

「お帰りなさい、兄上」

「おう、ただいま。千鶴」

「良かったですね。姉上」

「うん」



再会の幸せな時間も長くは続かなかった。

「さぁ、朝御飯ですよ。さっさと食べてそれぞれの仕事をする!いいですね」

「はい義母上さま。行きましょ、助三郎さま」

「あぁ。お前、二日酔い対策に迎え酒飲むか?俺も付き合うぞ」

「そんなの飲まない!」




こうして、普段通りの日常が戻ってきた。
変わったのは、夫婦の絆。

二人の繋がりはさらに強くなっていた。





************************************************
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

花言葉

『千日紅』…変わらない愛情を永遠に、不朽 など
作品名:千日紅 作家名:喜世