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同じ夢を見ている

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荒れ狂うような蝉の大合唱が余計暑さを助長させる。蝉の声はどうしてこんなにも暑苦しくさせるのか。てうわんうわんと響く唸り声は、徐々に思考回路も鈍らせていく。
 梅雨が終わり、夏本番。もう夕方だというのに、太陽はいまだ元気にぎらぎらと自分たちを照りつけている。何もしなくても流れてくる汗が不快すぎる。
「――あちーっスねー、黒子っち」
「ええ、本当に」
「……」
 同意はしてくれたが、隣を歩いている黒子はまったく暑そうに見えない。よく見ればうっすらと汗ばんでいるようだが、髪色のせいかやけに涼しそうに見える。
 その無表情な顔と声であまりにもおざなりな返事をするものだから、黄瀬は試しに言ってみた。
「あーあ、バスケしたいっスー」
「ええ、本当に」
「黒子っち、もうバスケしよう!二人っきりで!」
「ええ、本当に」
「――黒子っち!!ちゃんとオレの話、聞いてほしいっス!!!」
 思ったとおり、適当にうたれていた相槌に文句を言うと、
「きゃんきゃんうるさいです、黄瀬くん。ただでさえ暑いんですから」
「黒子っちがちゃんとオレの話聞いてくれないから!」
「ちゃんと聞いてますよ。で、テストの話でしたよね」
「黒子っちー!!?」
 黄瀬の悲痛な叫びに冗談ですよと、黒子は気が済んだように毎度お約束の黄瀬いじめを終えた。黒子は淡々と冗談を言うものだから、たまに本気じゃないかと思ってしまう。黄瀬にとってはかまってくれるだけでうれしいので、そんな会話さえ楽しいのだけれど。


 なぜ黒子と二人、まだ明るいうちに帰宅しているかというと、練習が早く終わったわけではなくそもそも練習さえなかった。バスケの強豪校で二連覇中の帝光中だが、学校であることには変わりない。授業だって毎日あるし――もちろん定期テストだってある。
 そして今日は一学期末のテストの前日である。一週間前から部活動は禁止されたので、バスケバカが揃っている帝光中バスケ部はもんもんとした一週間を送っている。が、それもあと数日の辛抱だ。
「ねーねー、黒子っちの今回の目標点はー?」
「僕はいつもどおり、国語以外の教科は平均点を狙っていきます」
 この隣を歩く幻の六人目の学力は本当に並みだ。赤司や緑間のように成績が良くて目立つこともなければ、黄瀬や青峰のように悪くて目立つこともない。特徴といえば、国語の成績だけは良いところだろうか。ちなみに紫原はあれでいて、黄瀬や青峰よりずっと成績が良い。
「でも黒子っち。今の言い方だとまるで毎回平均点をわざと狙ってるような言い方っスねー」
「――知ってますか、黄瀬くん。帝光は赤司くんや緑間くんのようにとても成績がいい人と、黄瀬くんや青峰くんのようにとてもとても成績が悪い人との差が激しいんですよ」
「さらっとオレと青峰っちのこと、すげー馬鹿にしたっスよね?」
「気のせいです――ですから、あまりその中間の成績をとってる人はいないんです。つまり、平均点を取るのは難しいんです。わかってくれますか?」
「……とりあえず、黒子っちも暑さにやられてるってのがよくわかったっス」
「……そのようです」
 涼しそうな顔して実は自分より暑さにやられている。本当にその薄い外見とは裏腹に、実は熱かったりするのだから、黒子の傍にいるのはやめられない。まあ、傍にいるのは自分だけではなく強敵が四人もいるのが問題なのだが。


 そうしてできるだけ現実を見ないよう、勉強の話は避けながらどうでもいい話をしながら歩いていた。ふと、黒子の表情が何かを見つけたような顔になる。
「どしたんスか、黒子っち」
「青峰くんです」
「は?」
「ほら、あそこ。青峰くんがいます」
 ちょうどバスケットコートを通り過ぎるところだった。手前のコートでは大学生ぐらいの男たちが、わいわいバスケをしている。そしてその奥のコートのほうに、小さいが確かに見慣れたガングロ男が見える。しかし、その距離は遠すぎる。よく気付けたものだと驚くとともに――すこし嫉妬する。
 一瞬芽生えた醜い感情は、しかしたちまち消え失せた。なぜなら、どうして青峰はテスト直前にも関わらずボールを持ってバスケットコートにいて、しかも高校生五人ぐらいに囲まれて一触即発の雰囲気を出しているのか、という問いが浮かんだからだ。
「……どうしてアノ人、ボールなんか持ってここにいるんスか」
「君の想像通り、テスト週間で赤司くんにバスケ禁止令を出され、今まで大人しくはしていたけれどとうとう鬱憤が溜まって、見張り役の桃井さんが目を離したすきにボールを持って飛び出しここでバスケをしていたところあの五人組に絡まれ、ちょうどバスケがしたかったところの青峰くんはわざとあの人たちを挑発してバスケしよう、ということだと思いますよ」
「……うん、大体そんな感じ」
 バスケ部全体に出された赤司によるバスケ禁止令は、主に青峰(と黄瀬)のためであったのにやはりその本人には届いていなかったようだ。おそらくふっかけてきたのは高校生のほうだろうが、青峰の目はぎらぎら輝いていて、どちらが悪者かわからない。そもそも一人で五人相手にしようというところから無謀すぎる。青峰がいくら強くても五人はやりすぎだ。
「青峰っち、本気で五人相手にするつもりなんスか……」
「彼ならやりかねないですね」
「――っ!ほんっとバスケバカッスね」
「君も僕も人のことは言えませんが……ええ、でも。本当に、」
 そのときの黒子の横顔が優しくて嬉しそうで泣き出してしまいそうで、黄瀬の目に強く焼き付く。
「――しょうがない人ですね」
 ただその顔は、決してこちらに振り向かないけれど。







「……さて。それでは僕らも行きましょうか」
「へ?行くってどこに」
 間抜けな顔で尋ねると、もちろん青峰くんのところですよと黒子は答えた。
「赤司っちの禁止令、破っちゃうんスか?」
「だって、どうせ青峰くんはあの様子だと絶対テスト勉強なんかしてそうにありませんし、それに駄目だと言って素直に従う人じゃありませんし」
 青峰が悪いのだと言っているが(事実青峰が悪いのだが)、黒子もボールに触りたくて堪らないのが見て取れる――そして自分も。
「それに、ほら。よく言うじゃないですか。赤信号みんなで渡れば怖くないって」
 それから黒子は「黄瀬くん、バスケしましょう」と言って黄瀬の手を取る。その手だけで今は満足するべきなのかもしれない。







 もちろん、赤信号はみんなで渡っても怖かった。
作品名:同じ夢を見ている 作家名:kuk