金銀花
「もちろん。俺は男だから」
すると、何を思ったか千之助は香代に謝り始めた。
「……この前は悪かった。……とんでもないことして、驚かせて。二度とあんなバカなことしない」
以前の己の淫らな行為を恥じ、過ちを繰り返さない事を誓った。
「ううん。気にしてない。千之助さまが、わたしの事、想ってくれてる証拠だから……」
優しい言葉に、千之助は安心し、どうしてもしたかったことを実行に移すことにした、
「……なら、いいか?」
「えぇ」
そっと香代を抱き寄せた。
少し緊張して強張っている彼女に、また自分自身に暗示をかけた。
「……襲ったりしない。大丈夫だ。大丈夫」
すると、香代の緊張は解けた。
しかし、彼女の中に不安はまだ残っていた。
「……あのね、千之助さま好きだけど、まだちょっと怖いの」
「……怖い? あ、あれの事?」
千之助は、女だった時教えられなかったことを、早苗から教わった。
女が祝言の夜、何を思うか、何を感じるか。
それを考えたうえでの行動をとることを学んだ。
予想通り、赤くなりながらもうっすらと怖がっている香代を千之助は落ち着かせた。
「怖いなら、今日はいい。怖くなくなった日で良いから」
「ありがと……」
それは兄から強く言われたことだった。
押し切るな、無理強いするな、相手に聞け。
それを忠実に守った。
しっかり香代を抱きしめていた千之助だったが、もっと二人の関係を発展させるべく香代を見詰めてそっと聞いた。
「……これなら良いか?」
「えぇ」
香代に、口付けをした。
女だった時はどこかで歯止めがかかり出来なかった。
しかし、今は躊躇なく出来る。
千之助は多くの幸せを噛み締めていた。
男として愛する女を愛することが出来る幸せ。
自分の存在意義が明確にわかる幸せ。
その頃、佐々木家では夫婦二人は大忙しだった。
数日前、光圀に上様からの文が届き、江戸に旅立つ事になってしまった。
おそらくそこから、何処かへの旅。その準備にてんてこ舞いで、毎晩夜遅くまで支度をしていた。
しかし、その夜、弟の幸せそうな祝言を見た後の助三郎の感情は高ぶっていた。
助三郎は着物をたたんでいる早苗に背後からそっと忍び寄った。
しかし、女とは言え柔術の腕は並大抵でない早苗。
彼の気配に気づき、するりとかわそうとした。しかし、なぜか失敗した。
気付くと助三郎に抱き上げられていた。
「ちょっと、何するの? まだ支度が終わってないでしょ? 着物入れてないじゃない」
「……着物なんかより、お前を持ってきたいな」
「は?」
「……明日からは格之進ばっかだ。今夜ぐらいお前と過ごしたい」
いつになく、色っぽく言う夫に早苗は真っ赤になって言った。
「……だったら、早く支度終わらせて!」
「わかった。すぐにやる!」
さっきまでのダラダラがうそのようにてきぱき支度をし始めた彼に若干呆れた早苗だが、
その光景を眺めてほほ笑んだ。
「それ終わったら、お風呂で背中流してあげる」
「……良いのか?」
「うん」
「よし! やるぞ!」
二組のちょっと変わった夫婦の夜がふけて行った。
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ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
金銀花=スイカズラ
花言葉: 愛の絆、献身的な愛 など ※※※