雪柳
「……上に、乗るな。……死ぬ」
「ごめんなさい! 早苗さんも起きて!」
クロはもう一人の主、早苗を起こそうとした。
布団にもぐりこみ、雪を触った冷たい手で、早苗の首筋を触った。
「……冷たい!」
その悲鳴は低かった。
またしても早苗は、寝ている間に男に変わっていた。
癖は中々抜けるものではなかった。
そんなことは百も承知のクロは驚くことは無かった。
「格さん。起きてよ。遊ぼうよ!」
「……なにして?」
欠伸をこらえながら、早苗は聞いた。
するとクロは元気よく答えた。
「雪遊び!」
その声に、ひと足早く起き上がっていた助三郎が呆れた。
「雪降ってるのか? 通りで寒いわけだ」
「うん! 真っ白だよ! 冷たくて美味しかった!」
クロの言葉に、助三郎はあっけにとられた。
「……食ったのか?」
「うん。美味しかったよ。ねぇ、それより早く遊ぼうよ!」
「ちょっと待て、着替えてからだ」
そういって二人はそれぞれ着替え始めた。
しかし、クロは待てなかった。
「早く早く! 止んじゃうよ!」
そう言いながら部屋を走り回った。
耐えかねた早苗が、彼をピシっと叱った。
「静かにしなさい。まだ寝てる人が大勢いるの。騒ぐと遊んであげないわよ」
「あ、早苗さんに戻った!」
的外れなことを言う犬に、早苗は少しきつめに聞いた。
「聞いてたの?」
するとクロは大人しくその場に座った。
「はい。静かに待ってる」
「はい。よく出来ました。そのままちょっと待っててね」
「うん!」
身支度を済ませた夫婦二人はクロと共に、庭に出た。
そこは一面銀世界だった。