Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~
プロローグ
「全機36mmチェーンガンで応戦しつつ後退しろ!」
「「「了解!」」」
視界に広がるBETAの軍勢が確実にヴァルキリー中隊との距離を詰めてきている。それに対しヴァルキリー中隊も数少ない弾丸を使い応戦するが、最早焼石に水の状態。36mmチェーンガンと言う非力な武装では突撃級の甲羅を破壊することは叶わず、その進撃を容易に許してしまう。
突撃級の弱点は甲羅に守られていない背中か側面。その場所ならば36mmチェーンガンでも容易に突撃級を撃破することが出来る。更には突撃級の旋回能力は低く、跳躍ユニットを用いて空中から攻撃すれば簡単に撃破する事が出来る。
だが突撃級の遥後ろには光線級が存在しており、無闇に後退する事も、突撃級を破壊する事も許されない。今はまだ前衛に広がるBETAの軍勢が光線級の攻撃を許さないが、このままヴァルキリー中隊が後退して行けばいつかは光線級のレーザーに照射されるであろう。
光線級を撃破しなければ後退も出来ず、かと言って光線級を破壊しに以降とすれば眼前に広がる突撃級が壁になる。
120mm滑空砲などがあれば突撃級を粉砕する事は出来る。だが既に120mm滑空砲の弾丸は底をつきており、突撃級を撃破することはかなわない。
来度の作戦におけるヴァルキリー中隊の役目は陽動。
甲20号目標の内部に蔓延るBETAの意識を此方に向け、その膨大な数のBETAを少しでも減らすために此処に存在している。
陽動の作戦は見事に成功したと言えよう。そのおかげで別働隊は甲20号目標の内部に侵入しており、その進行は今のところ順調と言う方向が入っている。
だが陽動を務めてる部隊は苦戦を強いられ、数ある部隊の内幾つかの小隊は既に壊滅状態まで追いやられ、今全員が無事に生存している部隊はヴァルキリー中隊のみとなっている。
(くそっ!私は…私はこんな所で死ぬわけには行かないと言うのに…!)
ヴァルキリー中隊の隊長と務める宗像 美冴は必死に考える。今の状況を打破出来る作戦を、皆が生き残れるための戦術を。
しかし幾ら考えようが今の絶望的な状況を覆す事が出来るような考えは思い浮かばない。逆に自らの心を埋め尽くしてゆくのは焦燥と絶望。幾ら死ぬわけには行かないと思おうがこのBETAの群集を前にしては意味をなさない。
数々の修羅場を乗り越えてきている宗像も今の状況を打破出来るカードは見当たらない。
「隊長!このままでは!」
「分かっている!」
部隊の仲間が発した絶望の声により宗像の苛立ちは更に募ってゆく。この状況をどうすればいいのか。どうしたら皆が生き残れるのか。
希望である応援は既にない。戦艦による艦砲射撃も期待出来ない。そうなれば自分達だけでどうにかするしかないだろう。
そう、それが現状であり、今の自分達の状態が現実だと宗像本人も分かっている。このまま行けばヴァルキリー中隊は壊滅する事を。
そんな事は許されない。許されないからこそ宗像はあがき続ける。少しの希望に賭け、宗像はあがき続ける。かつての仲間や上官と過ごしたイスミ・ヴァルキリーズを守るために。
「ヴァルキリー05よりヴァルキリー01へ!一部の突撃級が弾幕を突破しました!」
「ヴァルキリー01より。私がカバーへ向かう。ヴァルキリー02、私が開けた所のカバーを頼む!」
「ヴァルキリー02、了解!」
36mmチェーンガンを後ろにしまい、その変わりに長刀を手に持つ。
跳躍ユニットの出力を上げ、此方に全速力で迫り来る突撃級の側部に突撃し、がら空きの横っ腹に長刀を突き刺す。
人間と同じ赤色の血が吹き出し、突撃級はその進撃を止める。
そのまま宗像は流れるようにはみ出した突撃級を切り伏せ、突発した突撃級の存在を全て沈黙させた。
「ヴァルキリー02よりヴァルキリー01へ。早くこっちの応援に来て!もう持たない!」
「了解!」
風間の悲痛な声が宗像の耳に入り、宗像はその焦燥を駆り立てながらも風間がカバーしていた場所に向かう。
が、その瞬間。BETAの軍勢が割れた。文字通り、万を容易に超える数のBETA郡がまっぷたつに、モーゼの奇跡のように。そして二つに割れたBETA郡の先に見えたのは。
「全機横に飛べえええぇぇぇぇ!!!」
30はいるであろう光線級の目が怪しく光り、それと同時に全機の警告アラームがけたたましく鳴り響く。
次の瞬間には自機を含めたヴァルキリー中隊全機にレーザーが降り注ぐ。
宗像の瞬時の判断により大破する機体はいなかったものの、最悪の事態に見舞われる。
「風間!」
自分の所もカバーしていた風間は宗像の警告に反応するのが遅れ、戦術機の足をレーザーにもっていかれてしまった。地に立つ足を失った戦術機は重量に従いその体を地にあずけてしまう。
待ってましたと言わんばかりに地に倒れた風間めがけ、要撃級を含めた数多くのBETAが風間機目掛けてその進軍を進める。
「間に合え!」
瞬時に武装を36mmチェーンガンに切り替え、風間機目掛けて進軍するBETAに向け発砲するが、BETAはその進行を止めない。着実に風間機に近づいて行くBETA。
そしてついに一体の要撃級が風間機の目の前までたどり着き、その醜く大きな腕を振り上げる。
「風間あああぁぁぁぁぁ!」
脳内には要撃級の腕に潰された風間機の姿が映し出され、宗像の頭を真っ白にする。
宗像は必死に要撃級に砲撃するが、その活動を停止させるまでにはいたらず、遂に要撃級はその腕を振り下ろした。
「!?」
一発の弾丸が要撃級の腕を粉々に粉砕し、そして次にどこからか放たれた弾丸は要撃級の体を粉々に吹き飛ばした。
宗像は今目の前で起きた現象に理解が及ばず少しだけ唖然としてしまうが瞬時にその思考を切り替える。
「ヴァルキリー03と04は02のカバーへ向かえ!」
「「了解!」」
部下に風間のカバーに回るように命令を出し、そして先程の砲撃だ飛んで来た方に機体を向ける。
そしてそこに存在したのは見たこともない武装を携え、見たこともない外装をした黒と白の機体だった。
作品名:Muv-Luv Alternative~二人の傭兵~ 作家名:灰音