風香の七日間戦争
「あーびっくりした。でも小岩井さんにかわいいって言われちゃった。あれ? だけどかわいい寝顔ってほめ言葉?」
それでも機嫌がよくなる風香であった。
「小岩井さん、出かける用意できました」
「それじゃ行こうか」
二人は小雨の中出かけて行った。
「小岩井さん今日何にします? 私もうレパートリーがなくなっちゃった」
(あれ? 風香ちゃん機嫌直ってるな)
(まったくこの年ごろの女の子はよくわからん)
「小岩井さん?」
「ああ、ごめん。俺も思い浮かばないなあ」
献立が決まらないので、とりあえずスーパーに行ってみることにした。
「小岩井さん、私小岩井さんの傘に入りたい」
いわゆる相合傘である。
「いや、さすがに俺の年でそれはちょっと」
しかし風香はさっさと自分の傘を閉じ、小岩井の傘の中に入ってしまった。
「みんな傘差してて、よく見えないから大丈夫です」
そして風香は腕を組んでくる。
「えへへ、こうした方が濡れませんよ」
「風香ちゃんは腕を組むのと手をつなぐのとどっちが好き?」
「うーん、腕を組む方かな。安心するような気がする。小岩井さんはどっちですか?」
「俺も腕を組む方が好きかなあ。腕を組むのは男の方からはできないからね」
「言われてみればそうですね」
二人はスーパーに入り、食材を眺める。
「よし、今日は俺がソーセージ丼を作ろう。よつばも好きだし」
「わぁ、食べてみたい。でもいいですか」
「まかせてくれ」
二人は材料を買い店を出た。
「雨止んでる。ちょっと残念」
「なんで?」
「だって小岩井さんと相合傘できないんだもん」
「それじゃあ、その代わりに」
小岩井は風香の手を握った。
「小岩井さん……」
「いつも頑張ってくれてる風香ちゃんに」
(あ、手をつなぐのもいいかも)
風香は幸福感にひたっていた。
家に戻り小岩井が夕食の用意を始め、
風香もサラダを作るなどして手伝う。
ほどなくよつばが帰ってきた。
「おかえりよつばちゃん」
「ふーかただいま! とーちゃんは?」
「今日はお父さんがご飯作ってるよ」
「とーちゃんのごはんか!」
よつばは台所へ走って行った。
「よつばちゃん、手を洗って!」
しっかり母親役が板についてきた風香であった。
夕食の用意が整い、席について食べ始める。
ソーセージ丼は風香の予想以上においしかった。
片付けを終え、先に風呂に入る。
バスタブに浸かりながら、やはり自分らしくするのが一番だと思った。
風呂に入ったよつばを寝かしつけ、二階に上がって行くと小岩井も机でうたた寝をしている。
ぐっすり寝ていたが、風呂上がりでは風邪を引くと思い小岩井を起こした。
「小岩井さん、ちゃんと寝ないと風邪引きますよ」
「あ、あー寝てた」
「毎日夜遅いみたいだし、今日は休んだ方がいいんじゃないですか」
「ああ、そうする」
小岩井は下の寝室へ降りていった
風香も自分の部屋に入る。
布団に横になっていると、今日の出来事を思い出す。
(小岩井さん、手をつないでくれた)
風香は小岩井からアクションを起こしてくれたことがうれしかった。
朝起きたときには最悪な気分であったが、今はこんなに満ち足りている。
風香は明日もいい日でありますようにと願いながら眠りについた。