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凌霄花 《第三章 身を尽くしても …》

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「ありがとうございます」

 お夏は、小さい頃遊んでもらった近所のお兄さんと再会していた。
そして、彼はお夏を誘い、二人でしばしば逢引を楽しんでいた。
 
 早苗は、いつも自分に尽くしてくれる下女を応援した。
しかし同時に彼女を羨んだ。

「……いいな」

 助三郎が忘れられないのだった。
その証拠に、捨てずに持っていた。
 助三郎から貰った櫛と守袋を……
 
 何度燃やそうと思ったか。
 何度庭の茂みに投げ捨てようとしたか。
 が、できなかった。

「助三郎……」

 早苗はその日も、手のうちに残った櫛と守り袋を懐に戻した。
それが悪かったのだろうか。否、お夏を羨む気持ちが強かったのだろうか。
その夜、彼女はとんでもない悪夢を見た。





 真夜中だった。
 早苗は、本来の女の姿だった。
 そして、見覚えある江戸の役宅の廊下に立っていた。

『ここって……』

 すぐ目の前は、夫婦の寝室だった部屋。
中から、声が聞こえた。
 それは、間違いなく助三郎。
 そして弥生の声だった。

 低く囁く声と、甘えるような高い声。
 早苗は中で二人が何をしているのか、おおよその見当がついた。
 腸が煮え繰り返る思いだったが、歯を食いしばった。

 そんな彼女の隣に、突然足音もなく人が現れた。

『ちょっとの間、眼を瞑り、耳を塞いで居てくださいね……』

 それは女物のかつぎを羽織り、般若の面で顔を隠し、女のように長い総髪を一つにまとめた男。
 
『へ……?』

 早苗の手は勝手に耳を塞ぎ、目は閉じられた。
 
 長い時間がたった。
突然、彼女の眼は開き、耳を塞いでいた手が自由になった。

 そこに再び男の声が聞こえた。

『……来て』

 声に引き寄せられ、早苗は部屋に入った。
 そこで彼女が目にしたのは恐ろしい光景だった。

 足元に、見るも無罪な姿になった弥生が転がっていた。
恐ろしさの余り、逃げ出そうとしたが身体はいうことを聞かなかった。

『そんな塵屑は放っておいて…… 大事なのはこっち……』

 男はそう言い、早苗を呼びよせた。
見ると、彼は右手に血塗れの刀を握り、左手で助三郎を抱き寄せていた。
 しかし、助三郎は息をしてはいなかった。
 
『……何したの?』

 早苗は恐る恐る聞いた。

『何って、助三郎を永遠に我ら二人の物にしたんですよ……』

 男は刀を捨てると、助三郎を抱き寄せ、頬ずりし、嬉しそうに笑った。
般若の面で笑う男。助三郎を抱きしめる男。
 ただただ不気味だった。

『……二人の、物?』

『そうです。私たちの物。私たちの助三郎』

『わたしたちの、助三郎さま?』

『助三郎、二度と浮気なんかさせない…… ずーっと俺達の物……』

 早苗は、声を振り絞った。
 
『貴方…… 誰なの?』

 
『そんなこと、聞かなくてもわかってるでしょう?』

『へ?』

 男は、助三郎をそっと横たえると、早苗の目の前に立ち般若の面を取った。





『イヤ!』

 早苗の絶叫がこだまする部屋。
血塗れの格之進が、満面の笑みで微笑んでいた。