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変わらない温もりの隣で

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「なあエーリッヒ?」

「なんです、」

答えて視線を向けると、しかし声をかけてきた方のシュミットは椅子に腰かけたまま、エーリッヒの方を向いてもいない。
片肘をひじ掛けについて、その上に頭を乗せて、何やら難しそうな目線を手元の雑誌に落としている。
はらりとかかる前髪がうっとおしかったのだろうか、ふいと払いのけて、それでもまだ目線は変わらないまま。
小さくため息をついて、エーリッヒはシュミットのもとへと歩み寄った。
上から覗き込む紙面には、大振りの写真と見出し。
大きく写っているのは我らがリーダーと、その背後に自分たち。
見出しには『ドイツ一軍登場』だとか何だとか書いてある。

「…よく写ってるじゃないですか」

自信に満ち溢れた表情のミハエルは、モノクロの画面の割には彼をよく捉えていて、なかなか悪くない。
自分たちのリーダーは、年齢の上下など欠片も感じさせない存在感と実力で、今このチームをまとめ上げている。
背丈の面でいえば小柄な彼だが、自分にとっては限りなく大きな人物だ。
尊敬もしている。
だからこの写真は悪くない。
と、エーリッヒは思うのだが。

「……どうしたんですか、」

シュミット、と呼びかける。
よくも悪くもいつでも自分に正直なシュミットがむっつりと不機嫌を隠さないのはいつものことだが、この不機嫌は理由がわからない。
しかし、言葉での返答はなく、シュミットは押し黙ったまま紙面の一部を指差した。
小見出しのあるその部分に、目を走らせる。

「こういう評価をされるのは、好まない」

「…仕方がないです、本当のことですから」

「お前は平気なのか」

言われて、彼がどこに感じていたのか分からなかった不機嫌の矛先がやっとわかった。
紙面につらつらと並べたてられていたのは、日本に先発していた2軍チームの不甲斐なさと、それを率いた2軍のリーダーを責め立てる内容だった。
2軍のリーダーとは、つまりエーリッヒのことで。
じっと見つめる怒りを含んだ真摯な瞳はつまり、自分を気遣っているというわけだ。

「……わたしは、気に入らない」

「シュミット」

「お前が軽く見られるのは、我慢がならない」

ぐいと腕を掴まれる。
シュミットの膝から、雑誌が落ちた。
ばさり、エーリッヒの足を掠めてフローリングに着地をしたそれは、シュミットからは完全に無視されている。
シュミットはもう、自分だけを視界におさめて外そうとしない。

「平気なのか」

繰り返して聞かれて、真剣な瞳に見つめられて、エーリッヒは小さく微笑んだ。

「なぜ笑う」

「いえ、嬉しくて」

「何が嬉しいんだ」

こんな記事にされて何が嬉しいんだと、シュミットはさらに怒ってしまったようだ。
そうだ、シュミットはいつでも正直で真直ぐで、エーリッヒのためにも真剣になって、よく怒っていたのだった。
違いますよと、やんわりと否定する。
エーリッヒの腕をつかんだままの手に力がこもって、そっとそれに自分の右手を重ねる。
幼いころから変わらない温もりが指先から伝わって、触れた部分だけでなく、胸の内まで温かくなるような気がした。

「平気です。平気なんですよ、僕は」

「…お前はいつもそうだ。自分のことには興味がないような顔をして」

もっと自分を大事にしたらいいだろう。
真摯な瞳も、まったく変わらない、昔から。



そうだ、いつでもシュミットはそばでそうやって、



エーリッヒはまた微笑んだ。
違います、繰り返す。

「違いますよ、シュミット。あなたがそうやっていてくれるから」

「?」

「もう、平気でいるしかないじゃないですか」

あなたがいれば、十分なんですよ。
言いながら、額を肩口に預けると片手が添えられる。
髪に触れて優しく梳くように動いて、それからそっと肩を抱くように。

「なら、」

「はい」

「これから、取り戻せ。お前の評価を、わたしの傍で」

お前がよくても、わたしがよくない。
憮然とした、それでいて本当は優しい声音が耳元で囁いて、

「はい」

微笑んで答えると、シュミットの両腕がするりと背中に回った。
考えてみれば再会後久しぶりの抱擁に、二人はしばしお互いの体温だけを感じるためにより身を寄せ合ったのだった。






2010.3.28