「ありがとう」
満面の笑顔でいうあいつに俺はいつも戸惑ってしまう。
「アンタ、ありがとういいすぎ……」
俺がそういうと、
「だって、コウ君が優しいからだよ」
あっけらかんにいう。
「俺は、誰にでも優しいわけじゃない……」
「えっ?」
「……な、なんでもない……」
まずい……今、変な気持ちになった。
あのまま俺……アンタになに言おうとしてたんだ?
背が低い同志というだけで、勝手にカップルにされ、西山に好きな人がいて、そいつが身長が190センチもあって、勝手に振られたことになり……
思い起こせば、出会いは最悪だった。
アンタさえ、いなければ俺は平穏な生活を過ごせたはず……。
事実、そう思ってた。
でも、
隣の席でアンタを見てると、『羨ましい』という感情がふつふつとわき上がってきた。
人にたいして、素直に、
「ありがとう」
そういえる人はどれだけいるのだろう?
俺もそうだが、「ねたんだり」、「うらんだり」、「嫌いになったり」……そういうことは簡単なはずなのに、「感謝したり」、「ありがとう」っいったり、「好き」っていったりするのは、躊躇してしまう。
西山は、素直にそれが表現できる……
いや……
厳密にいうと違うか……
「変わったんだ」
アイツ(広瀬)と付き合うようになってから……
人と付き合うということについて、考えたことはあまりない。
同性とも必要な会話くらいしかしてこなかった……
『怖い』
何が怖いのか……よく分からない……。
人と接するのが怖い……。
どういう目で見てるんだろうと疑心暗鬼になってしまう。
それは、西山も同じで、
アイツは勝手に、
『人見知り同盟』
なんて言ってたけど……。
間違ってはいないと思う……。
「アンタのためならなにかしてやりたい」
そんな気持ちすら、芽生えてしまっている。
☆☆☆
「ジー……」
目の前に今、座っているのは西山の友達で、中野だ。
「なに、じっと見てんの?」
そう尋ねると、
「いま、ひよりのこと考えてたでしょ?」
「えっ?」
……
思っていたことをあてられ、驚いてしまう俺。
「わかるんだから……私は、ひよりの一番の友達だし……」
「そうだよな……っいうか、度が行き過ぎてる気もするけど……」
「う、うるさいな……いいでしょ!」
「まあ……アイツは確かに、俺でも気になるし……」
「えっ?」
「はっ!」
中野と俺がはもった。
「やっぱり……二戸部君はひよりのこと……」
「ち、違う! だれがあんなちんちくりん……」
「……あわてて否定いするところをみると、図星だね?」
「だから違うっていってんだろうが!」
「ひよりのこと、気にしてくれるのは私も嬉しいよ」
「だから別に……」
「おっ、出たね……その、『別に』発言」
「アンタといるとなんか疲れるよ……俺……」
なんか、調子狂うんだよな……
中野も西山も……
やっぱり、友達同士ということは性格とかも似てくるのか?
「二戸部君って優しいよね」
突然、優しい顔つきで答える中野に思わずドキっとする。
「そ、そんなこと……」
「そんな謙遜する必要ないじゃん! この前ひよりとケンカしたときも、私のこと、考えてくれて……嬉しかったよ!」
「……あんだけで、泣かれちゃえば……必然と……」
そう俺が困惑しながらいうと。
「あのね、今からいうことはひよりには内緒にしてね。あのとき、ひよりには結心っていう彼氏がいるじゃん? 彼氏なんだから、あたりまえだけどひよりのことをかばう立場になるよね?」
「まあ……」
「でも、あのとき、私の味方になってくれたのは、二戸部君だよね?」
「そんな、たいそうなもんじゃないけど……」
「ううん。私、思ったんだ。いつでも、ひよりの味方でいる……そう思ってたけど、これからだって、喧嘩したり、意見が合わなくなったりすることだってあるよね? だから、私には、「ひよりのことを大切にしてくれていて、でも、いざというときには私の一番の味方になってくれる人」が必要なんだって思ったの。それが、二戸部君だったら私……嬉しいんだけどな……」
顔を真っ赤にしていう中野。
コイツと初めあったときのイメージは、とにかく『大食漢』、『西山一番』という二つの塊。でも、この前の西山とのすれ違いから、
「とっても弱い奴」
そういうイメージに変わった。
多分、西山よりももろいんじゃないか……
「……そういうのは、彼氏にでも頼めばいいだろ?」
そう俺がいうと、
「だから! それが二戸部君だったら嬉しいっていってるの!」
そう強く言う彼女に、
「……」
言葉を失う俺。
それは、つまり、
『俺のことが好き』
っていうことか?
「アンタ、本気でいってんの?」
そう尋ねると、
「こ、こんなこと冗談じゃいえないよ! で?」
「俺は……アンタのこと、いい奴だと思ってるよ」
「……それは私が振られたということなのかな?」
「そういう訳じゃ……ただ、その、西山のことがどうも……って! あっ!」
「やっぱりそうなんだね……ひよりのこと『好き』なんだ?」
「……なんというか気になるということでいえば、西山の方がという意味で、別に好きというわけでも……第一あいつの彼氏は広瀬だし……」
「まあ、そうだけどね……でも、ひより、二戸部君のこと頼っているのも事実だし……。」
ため息をつきながら言う中野。
「でも! 私の気持ちは本当だから……。だから、いつか絶対、コウ君の気持ちを『射抜いて』見せる!」
そういって、中野は部活へいった。
……
っていうか、あいつ『弓道部』だっけ?
『射抜く』とかいうと洒落になんないな……
そんなことを考えながら、
「まあ、俺はアンタのこと、気にいってるよ」
そう小さくつぶやいた。
☆☆☆
『ありがとう』
『好き』
中野と西山のその台詞が頭の中をこだました。
(Fin)