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星が降る

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 今夜は流星群が見れるんだぜ。そう言って深夜に俺を連れ出したのは山本だった。この男がこんなにロマンチストだとは思わなかった。けれど流星群なんてそうそう見れるもんじゃないし、俺は軽い気持ちで山本についていった。街から少し離れた小高い丘の上の公園。ここまで来れば街のネオンに邪魔されずに、夜空が綺麗に見える。芝生の上に二人で大の字に寝転がって、空を見上げる。こんな姿勢で空を見ることなんてあまりないせいか、気を抜くと空に吸い込まれていきそうだ。冷えた空気が肺を満たす。身体の芯から冷えていきそうな夜だった。

 流星群と言っても流れ星が流れるのは一瞬で、山本は見えたと言ったけれど、俺は流れたかどうかさえ分からなかった。俺が鈍いだけなんだろうか。山本はいつもより口数が少なくて、夢中で星を見ているのだろうと思った。そう言えば男二人で流星群なんて、何か変なの。俺はすんと鼻をすすった。

「寒い?」
 左側から声が聞こえてくる。
「うん……手とか鼻とか、冷たくなってきた」
 右手で自分の顔に触れる。頬も手も同じくらいひんやりしていた。それでもせっかく来たんだから流星が見たくて、俺はまた漆黒の闇を見つめる。



 と、視界の真ん中で光が滑った。



 一瞬だった。けれど確かに流れ星だった。一気に気分が高揚した。興奮気味に山本に話しかける。
「や、山本! 星、流れ……」

 そこまでしか言えなかった。びっくりして、何も言えずに山本の横顔を見ていた。空を見つめたままのその眼差しは真剣そのものだった。



 急に、俺の左手を山本が握ったから。



「え……あ、山本も、寒かった?」

 でも言ってから気付いた。山本の手はすごく暖かかったのだ。山本は俺の手を握ったまま何も言わない。俺はそれが怖かった。話しかけてもいけない気がした。だから黙ったまま、また夜空に視線を戻した。けれど流星探しをするにも、暖かい左手に気を取られて全然うまくいかなかった。
 山本はさっきから全然笑わない。いつもみたいに笑わない。ずっと黙っている。だから俺はもう何となく分かっていた。何も言わないけれど、山本が俺の手を握ったのは、ただ寒かったからなんて理由じゃなくて、そこに特別な意味があることを。山本がわざわざ流星の降る夜を選んで、俺をこんな場所まで連れ出したのだって、そういうことなんだろう?
 だけど、怖かった。口に出してしまったら俺たちは、流星みたいにつるんと滑って一瞬で闇に融けてしまう気がして、怖かった。

「ごめんな」
 しばらくしてから山本がぽつりと呟いた。

「……山本は、意外とロマンチスト」
 そう冗談めかして言っても、山本は何も返してくれなかった。だから俺も黙って、繋がれた手をぎゅっと握り返した。手を繋いだままだったら、闇に融けても怖くないかも、と思う俺だって大概、ロマンチストなのかもしれなかった。
作品名:星が降る 作家名:タカノ