星が降る
流星群と言っても流れ星が流れるのは一瞬で、山本は見えたと言ったけれど、俺は流れたかどうかさえ分からなかった。俺が鈍いだけなんだろうか。山本はいつもより口数が少なくて、夢中で星を見ているのだろうと思った。そう言えば男二人で流星群なんて、何か変なの。俺はすんと鼻をすすった。
「寒い?」
左側から声が聞こえてくる。
「うん……手とか鼻とか、冷たくなってきた」
右手で自分の顔に触れる。頬も手も同じくらいひんやりしていた。それでもせっかく来たんだから流星が見たくて、俺はまた漆黒の闇を見つめる。
と、視界の真ん中で光が滑った。
一瞬だった。けれど確かに流れ星だった。一気に気分が高揚した。興奮気味に山本に話しかける。
「や、山本! 星、流れ……」
そこまでしか言えなかった。びっくりして、何も言えずに山本の横顔を見ていた。空を見つめたままのその眼差しは真剣そのものだった。
急に、俺の左手を山本が握ったから。
「え……あ、山本も、寒かった?」
でも言ってから気付いた。山本の手はすごく暖かかったのだ。山本は俺の手を握ったまま何も言わない。俺はそれが怖かった。話しかけてもいけない気がした。だから黙ったまま、また夜空に視線を戻した。けれど流星探しをするにも、暖かい左手に気を取られて全然うまくいかなかった。
山本はさっきから全然笑わない。いつもみたいに笑わない。ずっと黙っている。だから俺はもう何となく分かっていた。何も言わないけれど、山本が俺の手を握ったのは、ただ寒かったからなんて理由じゃなくて、そこに特別な意味があることを。山本がわざわざ流星の降る夜を選んで、俺をこんな場所まで連れ出したのだって、そういうことなんだろう?
だけど、怖かった。口に出してしまったら俺たちは、流星みたいにつるんと滑って一瞬で闇に融けてしまう気がして、怖かった。
「ごめんな」
しばらくしてから山本がぽつりと呟いた。
「……山本は、意外とロマンチスト」
そう冗談めかして言っても、山本は何も返してくれなかった。だから俺も黙って、繋がれた手をぎゅっと握り返した。手を繋いだままだったら、闇に融けても怖くないかも、と思う俺だって大概、ロマンチストなのかもしれなかった。