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具志堅ヨーコ
具志堅ヨーコ
novelistID. 1545
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君の××にもう飽きて

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 宛がわれたその熱さに、虫唾が走る。

 ごくり。息を呑む音に合わせて喉仏が上下する。中央にある控えめな突起を見さえしなければ女性かと見紛うような白い首にはしかし、痛ましい紅い痕が点々と飛んでいた。
「怖いか?」
 ぎり、と睨みつけるようにして日本は瞳を上げる。舌の上に広がる血の味に、下腹部を波のように短い周期で襲う鈍痛に、背中の焼けるような熱さとそこへ残されたであろう鞭の痕に掻き立てられ、腹の底から湧き上がる怒りを込めて日本は目を見開いた。身体に傷を付けられたという怒りがそうさせたのではない。かと言って屈辱的行為には怒りが湧かぬのか、と問われれば即座に否定するだろう。いくら自虐的だの、自己を卑下し過ぎだのと言われそれを自ら認めていようとも、屈辱を平然と受け入れられる日本ではない。彼の中にある恥辱屈辱を軽く飛び越えて、日本を駆り立てていたのは――裏切られた、ただその失意のみであった。硝子細工を扱うようにそっと頬に触れたあの手が、拳となって同じ頬を殴りつけるとは露とも思わなかった。この方になら肌を許しても良いと、紳士然とした彼の微笑みに全てを預けてしまった自分が阿呆らしい。
 ゆっくりと、撫でるように黒い手袋を嵌めた指先が首筋をなぞり上げ――そして、慣れ親しんだ知人と握手でもするかのように躊躇いなく日本の首を掴んだ。ぐぅ、と喉が短く呻く。苦しかった。喉元に込み上げる罵倒の言葉が全てそこでせき止められて、吐き出せない感情の荒々しさが苦痛となって首を締め付けている。身体を少しよじった拍子に、じゃらりと鎖のこすれあう金属音が響く。戯れによって拘束された手首から先は、長時間無理に持ち上げられているために既に感覚を失っていた。
 目の前にいる男は、少し顎を上向けて不満げに唇を突き出した。どうやら、沈黙し睨み返すばかりの日本の反応を面白く思っていないようだった。
「なぁ日本、怖いか?」
 さも愉快そうな音色となって日本の耳に届いたイギリスの声には、ただ純粋な疑問だけが浮かんでいた。同様に、絡んだ視線の先にある、エメラルドグリーンの瞳の中にも。そこに喜悦でも浮かんでいれば良かったのだろうか。寄せられた眉が悲しげに見えるほど、その表情に裏はない。少なくとも、日本にはそのように見えた。
「ええ、心底恐ろしいと思っていますよ。猫を被り続けて私を貶めるあなたが、ね」
 言って日本はイギリスの顔目掛け勢い良く唾棄した。首を押さえつけられていたためか、血の混じる液体は的を外れ地に落ちた。ちっと憎々しげに舌を打った日本のぎらついた獣のような瞳に、イギリスは一つ肩を竦めてみせる。
「酷い言い草だな。俺はお前を騙してなんかいないっていうのに」
 今まさに人殺しの真似事をしている彼は、被害者はこちらだと言いたげな顔で日本を見上げていた。日本は下唇を強く噛んだ。散々傷を刻み込み、自分を陵辱しようとしている男に愛情などあって堪るだろうか。それを愛と、自分が彼に抱いた情と同じものなのだ、などと認めることなど出来る筈がない。
 ぎち、と首に添えられた手の平に力が込められた。
「お前が好きだから、お前の色んな顔を見たいんだ」
 相変わらず、嘘の無い声音でイギリスは言う。あなたなんか嫌いだ、その一言ですら喉を支配された日本は紡ぐ事が出来なかった。何故気付かなかったのだろう。どれほど美しい表情を作ることが出来ようが、その心が美しいとは言い切れない。どれほど優しく手を取り、どれほど穏やかな視線を向け、どれほど愛の言葉を囁いたとて――内に秘められた本心など、見抜くことなど出来ない。ましてや、愛情に歪んだレンズを通していては。
 彼に締め付けられた手の平の内側で、狂ったように頚動脈がどくどくと暴れている。
「お前はよく笑ってくれた。俺はお前の笑顔、大好きだった。頭にしっかり焼き付けたし、写真にも撮ってある。十分過ぎるくらいに、な」
 徐々に唇が痺れ始めて、水中に沈むかのようにイギリスの声がすうっと遠ざかる。片膝の裏を支えていた彼の手が、身体を折り曲げるようにぐっと腹側に押し付けられる。大好きだったのはこちらも同じだ。顔を綻ばせこちらを見つめる彼の傍にずっといられたらと、愚かしくも夢見てしまうほどに。
「だから、笑顔はもう要らないんだよ」
 競り上がるような圧迫感の中、日本が意識を飛ばすその直前に見たのは、初めて唇を重ね合わせたその日と寸分違わぬ、恍惚すら覚えるほどの甘やかな笑みだった。