魔導師を辞めた高町家の男
プロローグ
此処は、第一管理世界ミッドチルダにある時空管理局本局。
時空管理局とは、警察や軍事に裁判を一緒にした様な組織で、管理世界のあらゆるところに局員を配置させて治安を守ったり、貴重な自然を守ったりする重要な組織である。
その中でも、犯罪行為に対する武力行使部隊。それは、魔法と言う力を持った人間がなる事ができる極めて危険な仕事の一つ。簡単に言えば、魔法の力を使う武装隊だ。
魔導師なら、子供でも武装隊に入隊できるという不満な個所もあるが人手不足の為、仕方がない事だ。
管理局の武装隊は幾つもの部隊が作られている。
陸士隊、航空武装隊、陸上警備隊、救助隊等々。様々な部隊が存在する。
その中でも、もっとも危険な部隊が一つ。それは、古代遺物管理部という部隊だ。
その部隊はロストロギアと言う、古代に作られた兵器や遺跡などの、強大な魔力を持った危険な代物を探索・調査・確保する事を任務とした部隊だ。
ロストロギアの中にある魔力が暴走すれば世界の一つや二つを容易く破壊する程の力を持った物も発見されており、多数の犠牲者が出ている。
その犠牲者を一人でも救う為に一分一秒でも早く確保し厳重に封印しなければならない。
それが、俺が所属する部隊である。
その中でも俺は執務官という役職をしており、俺が中心となって事件を一つでも多く解決させていった。
俺、高町隼人一等空佐は自分の力を全部使ってでも人々の命を守ってみせると誓った男だ。
長い長い時はずっと流れて、俺は管理局に辞表を出した。
理由は、任務中による負傷で魔力の源のリンカーコアを修復不能な状態にまで傷ついたからである。
生きているのは奇跡だと医者や友人に何度も言われた。
それに、その任務も無事に解決した事になっていて嬉しく思った。
何故か、俺は管理局のみんなから英雄だと言われていた。
そこまで凄い事をした記憶はあまりないのだが。正確には、少しだけ記憶障害になっているだけだが。
「本当に辞めるの?」
「あぁ。悪いな、迷惑をかけて」
俺は今、故郷の地球に帰るために時空転移ポートまでやってきたが、今までずっと仲間だった友人に引き止められている。
友人は、目に涙を貯めて必死に俺の事を引きとめようとしている。
「貴方なら、人事部や事務仕事でも簡単にできるでしょ?」
確かに、魔法を使ってはいけない身体になっても管理局を辞める必要はない。
だが、俺は此処にいたら絶対にやってしまう。
それは、
「管理局にいれば、俺はどうしても魔法を使う事になる。そんな事をすれば、どうなるか自分でも判っていながらでも自分の命より他人の命の方が優先させている俺なら……きっと……」
「っ……」
人の命が救えるのなら、自分の命なんて要らない。
いつもそんな事を想ってやってきていた。
だが、それじゃ意味がないと漸く気付かされた。
俺が死にかけた事で何人もの人が心配してくれた。
もし、俺が死んでいたらその人たちは悲しむだろう。
それでは、何の得もない。
自分の命を救えない様な奴が一人前に人の命を助けるなんてできるわけがない。
人を悲しませても同じだ。
「悪いな。何時の日かまた会えるさ。俺は、居なくなるわけじゃないんだ」
「……わかった」
友人は暗い表情で顔を下に向けたまま黙り込んでしまった。
出発の時くらいは笑顔で見送って欲しかったんだがな。
「会いたくなれば、いつでも此処に戻ってくる。お前も会いたくなれば地球に来てくれて構わない」
「えぇ、その時は、他のみんなと一緒に行くわ」
「そりゃ大変だ。他のみんなって数え切れないほど居そうだが?」
「意地でも行くわ」
「……お茶くらいしか出せないと思うが、それで良いのなら来いよ」
あいつらがみんな来たら大変だわ。
コップとか結構買っておかないと足りなくなりそうだな。
あ、そうだ。こいつはお茶にもう一つ淹れるのがあったな。
「お茶に砂糖入れて待ってるよ、リンディ」
「お茶には五月蠅いわよ、私」
「御口に合うように工夫しといてやるさ」
「ふふ、楽しみにしてるわね」
俺の友人、リンディ・ハラオウンは先程までの暗い表情は何処かに行ってしまったようだ。
これで、俺も気軽に旅立てる。
いや、故郷に帰るだけだがな。
「じゃあ、そろそろ行く。また会おうなリンディ。それと、クライドとさっさと子作りしちまえ!」
「えぇ、って最後のは余計なお世話よ!!」
俺は、笑いながら転移ポートまで近づいて行く。
楽しかったよ、これまで。
いろんな事があったが、良い経験になった。
名残惜しいが、後悔はしていない。
じゃあな、ミッドチルダ。
じゃあな、管理局のみんな。
俺が生きてたら、また、会おう……。
鞄の中には、リンカーコアの損傷による心臓へのダメージを和らげる薬をたくさん持って、俺は故郷の地球へと時空転移した。
俺の命は、もうあまり長くはないかもしれない。
意地でも、生きてやるけどな。
作品名:魔導師を辞めた高町家の男 作家名:おおかみさん