桜小道のポピンズ
イメージは日本、彼のことだけを考えて作った。
喜んで、もらえるだろうか。
フランスがイギリスの家を訪れると、手紙を読みながらにやにやと笑うイギリスを発見した。
どうしたのだろう。
気味が悪い。
しかも、話しかけてはいないもののドアを開けたフランスに気付かないとは。
あの手紙は何だ、気になってフランスは、こっそりと忍び寄り手紙を奪い取った。
「うおわぁ!!てめっ何しやがる、このっフランス!!」
「ぜんりゃくいぎりすどの
こたびはおんれいもうしあげたきにそうろう・・・
日本か?」
「そうだよ!!ラブレターだだから返せ!!」
「ラブレタァ?」
日本ちゃんは意外にも母性に溢れるヤマトナデシコで(男だが)、
邪気もなくニコニコと笑い、素直に感情表現するアメリカやイタリアをいたく気に入っているようだった。
その日本が、イギリスと?ありえない。
フランスは頭の上まで掲げたイギリス曰く『ラブレタァ』を熟読すると、丁寧に折りたたみイギリスに返してやった。
「ただセッケンくれてありがとうって書いてあるだけじゃねぇかよ、妄想野郎」
「フンッ、お前のような過去の栄光に縋りつくしかない奴が、負け犬の遠吠えも甚だしいぞ。
過齢臭が移るだろう、出ていけ!!」
「言われなくても出ていくよ・・・用件忘れちまった」
「ハハッ、ボケが始まったなフランス!!徘徊はするなよ!!」
イギリスの減らず口を背中に浴びながら出ていったフランスを確認して、
イギリスは手紙を眺めながら電話を取った。
今度は何をプレゼントしようか。
“はい”
「あ・・・日本か?」
“イギリスさんですか?先日は豪華なものをありがとうございました。
お手紙お出ししたんですが、届きましたでしょうか”
「あ、あぁ。届いたよ。」
“そうだ、よろしければ明日のお昼、お食事にいらっしゃいませんか。お花見をしますので”
「え・・・いいのか?」
“何かおいしいものを持ってきてくださいね、では。”
「あ、あぁ!必ず行く・・・っ」
電話は無情な通話終了音を流していたが、イギリスはその言葉に小踊りせんばかりに興奮していた。
日本と。
二人で。
酒を飲み交わし、日本の作ったヘルシーな和食を楽しんで・・・二人きりの甘い時間を・・・
考えるだけで最高だった。
「・・・うまいもの?」
自らも首を傾げてしまうほど料理には縁遠く、イギリスは悩んでしまう。
「最高のものを出してやらねばな。」
ニヤリと笑って、キッチンへ向かう。
英日同盟を結んだ折、日本がほんのりと微笑んだ、あの笑顔が忘れられないのだった。
日本の家には大きなサクラ、
はらはらと儚く舞う花びらを手に取れば、
サクラの妖精のような彼がふんわりと笑って。
愛しい。愛を告げて、キスを・・・
するはずだった。
「アハハハハーハハハドイツさんドイツさんウケる!!マジウケ!!アーハハハハー!!」
「ドイツードイツーお花キレェーイ!!」
訳の判らない状況だった。
一体。
何が。
どうしてこうなっているのか?
肩を組み歌を歌うドイツとアメリカ、
サクラに登り花を散らすイタリア、
並んだ料理を食い尽くす中国、
ひたすら飲みながら笑う日本。
その笑顔に普段の清純さは欠片も存在せず、イギリスは唖然としてしまった。
つい、フランスに話しかけたくなる。
この状況を理解するための同等な見解が欲しくなる。
しかし今日に限って一緒ではないのだ。激しく後悔する。
「あれぇイギリス?君も呼ばれてたのかぁい?」
酒と料理で眠そうなアメリカがイギリスの存在に気づいた。
唖然としているイギリスを笑いながら、アメリカは日本にイギリスが来たことを知らせる。
「イギリスさん!!お待ちしてたんですよ!!」
ちょっとフラつきながら日本が歩み寄ってくる、
真っ直ぐに見上げられ、いつもと同じ日本に見えた。
ほんのり上気した白い頬と目元が愛らしい。
二人きりではなくても、彼は本当にサクラの精のようだった。
「すみません。何だかみんなが一緒で、楽しくて・・・」
「あぁ、人が集まればそれも仕方な・・・おい!?」
「イギリスさんvv」
急に抱きついてきた日本にイギリスは気が動転してしまい慌てる。
「お、おい日本!?お、ぉ、落ち着け!?」
小さな肩を抱いて、目を閉じた彼を見つめた。
「よし、飲め」
「はいイッキイってみましょー!!」
完全に目が座ったドイツに並々と注がれたビールを持たされ、
今まで可愛らしく抱きついていた日本が手を叩いてイッキ飲みを強制し、
他の連中も日本と一緒にイッキを大合唱する。
「ち、チクショウ!!お前らなんか最悪だー!!
その後、何杯、飲まされたのだろう。
日本とドイツは普段大人しい分酒が入ると変わるらしく、
「私の酒が飲めないのか!!それでも帝国男子かー!!」
と殴られたり、
「飲め」
と頭からビールをかけられたり、
気付くと、見知らぬ家の天井を見上げていた。
「お、日本!イギリス起きたアルよ!」
「あ、良かったです。気分はいかがですか?今、お粥を作っていますからね。」
「・・・どこだここ」
「日本の家アル。貴様一人が帰れなくなっていたアルよ、駄目な奴アル」
アルアルうるせぇ
イギリスはガンガンと鳴り響く頭を抱え起き上がった。
そこはベッドではなく、前に聞いたフトン、とやらだったが。
じろじろとこちらを覗き込む中国にイライラして睨みつけた。
「何でお前は残ってる・・・」
「帰るのに時間かからねぇアル、昨日は日本と一緒に寝たアルよ」
「アメリカは・・・」
「追い返したアル」
「クラウツとイタリアは・・・」
「私の家はラブホテルじゃありませんよ、って言って返しました。
さ、お粥どうぞ。」
ヤル気満々だったのかクラウツ、酒の力は怖い。
「・・・食欲、ないですか?もう少し冷ましましょうか」
「いや・・・お前は平気なのか」
「少し二日酔い気味です。
でも、あなたの方が心配だったので。」
にっこり微笑んで、日本がオカユ、を口まで運んでくれる。
米を炊いて軟らかくしたもののようだ。
悲鳴を上げる胃に優しく落ちていって、何だか安心する。
「・・・お味、悪くないですか?」
「あぁ。悪くない。今の体調に丁度いい」
「良かった。」
日本がふんわりと微笑む、
イギリスは大好きな笑顔を見れて、テンションだけが駆け上がっていくのを感じた。
隣で中国が撫然とした顔で見ていたが、気にもならない。
「ゆっくりなさってくださいね。」
また日本が、イギリスに向かってふんわりと微笑む。
微笑む彼に夢中になりそうな自分を感じた、
ライバルの多い日本との恋に、本気で熱中できそうだった。