そらごと
「君の力量じゃ受かるわけない」
鼻で笑うような表情を作る。小松田は憤慨すると、
「そんなことありませんよ」
とむくれた。
「利吉さんはいじわるです。ぼくだって努力してるんですよ。お仕事が終わった後、土井先生に見ていただいたりしてるんですから」
「それは大変だね」
「そうでしょう」
「土井先生がだよ」
利吉はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「一年は組の面倒だけでも相当ご負担なのに、君の就職活動が追加されたんじゃ、先生の胃が持たない。おかわいそうに」
胃を抑える土井の姿でも見たことがあったのだろうか。身に覚えがあったらしい小松田は言葉を失い黙り込んだ。
目頭にじわりと悔し涙が浮かぶ。
「ホント利吉さんはいじわるだ」
感情を隠そうともしない揺れる声でつぶやく。
「だったらあなたが見てくれればいいじゃないですか。こうやって話をしてる間にだって、手裏剣の練習ぐらい出来るんです」
利吉は、は、と短い声で笑い、小松田の言葉をはき捨てた。
「私は手伝わないよ。君が忍者に? 冗談じゃないね」
そう、たちの悪い冗談だ。希望なんてきくんじゃなかった。おかげで何度、悪い夢を見たかわからない。手裏剣が背中に刺さって、槍に突かれて、敵方に捕まって散々の拷問を受けた末、そして、自分が撃った銃弾を胸に受けて倒れる、小松田の最期を。
何度真夜中に飛び起き、荒い息で冷や汗をぬぐったと思っている。
「冗談じゃない」
利吉は苦々しい表情で、小松田を無理に引き寄せると抱きしめた。小松田はぽかんとした後、利吉さん、と不思議そうな、何もわかっていない声で利吉の名を呼んだ。