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【8/19】普独本サンプル【SCC関西18】

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足軽の隊列が、放った窓から見えていた。薄く透けたカーテンを引き開ける。先頭を切るはずの馬の首がないのを見るに、どうやらまだ出立前であるらしい。近頃ようやく床に足のつくようになった、つくりのよい木製の椅子から下りて、ルートヴィッヒは窓枠に手をかける。首を巡って下のようすを探るが、ギルベルトの姿はやはりどこにもない。全く兄さんはまた、と言葉のかわりに溜息をひとつ吐き出して、窓を閉め、カーテンを引く。読み始めたばかりの洋書は二頁の十行、九文字目で止まってしまったままである。区切りの悪いところだが仕方あるまい。栞を挟んで右綴じの洋書を閉じると、机上に放りっぱなしのまま、自室のドアに手をかけた。

*

「兄さん?…兄さん!」
「おう、ルッツ!」
食堂から兄の自室まで、そこかしこ探して回っているときだった。女中を引きつれたギルベルトが、長い廊下の向こうからなんでもないふうでこちらに手を振っている。もう出立のはずだというのに、随分悠長なものである。慌てたようすで駆け寄ってゆくと、ギルベルトはその場に片膝をついて両手を広げた。その胸のうちに飛びこむつもりはない。ルートヴィッヒは冴えた表情のまま、男の手前でぴたりと止まった。潔く飛びこんでやるほど、もう子どもではないのである。
「兄さん、あなた今から…っ!」
「わあーってるよ、お前に会ってから行こうと思って」
それなのにつれねえなあと、ギルベルトは両手でおもてを覆って鼻を啜り始めた。すんすん、とわざとらしいまでの擬音に、思わず呆れ入ってしまう。もう奇妙な演技に騙されて、慌てる年でもない。後ろの女中たちの、微笑ましいというようなあからさまな視線が、やけに気恥ずかしく思われていた。
「…わかった、わかったから、兄さん」
ぱっと顔を上げたギルベルトは、やはり泣いてなどいない。呆れ半分のまま、そそ、と男の懐に潜りこんでゆく。そうすると男の広い手のひらが背中を抱いてくるので、ルートヴィッヒもその首元に腕を回した。
「…どうか、御武運を」
前髪のうえから低い額にくちびるを落とせば、ほどなくして腕のなかから放たれた。全貌をとらえたギルベルトの表情は、兄らしい、弟が可愛くて仕方がないというふうである。
「あーもう!流石俺様の弟!可愛すぎるぜ!」