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君だけの色

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この世界は、光を拒絶している。



 気を抜くと舌を噛みそうになる悪道を行くこと約一時間、漸く目的地に辿り着いた。
 寂れた小さな町。
 予想していた通り、ジープを止めた途端、村人の咎めるような視線にかち合う。愛用のサングラスをかけ直し、風真は運転席から降り立った自分の相棒の方を見た。
 陽の光に透ける、金色の髪。
「スイ。依頼人との待合場所は?」
「この先の、村外れにある墓地」
「あー……、まぁ誰も近寄らない場所だけどさー」
 辛気臭い場所に好き好んで行く人間は、そうそういない。便利屋の自分たちにしか解決できないような問題を抱えているがそれを公にはしたくない、そう考える依頼人が指定する格好の場所が、この村では墓地しかなかったのだろう。
「んじゃま、行きますか」
「待て」
 歩き出そうとした風真たちに、小さく、けれど嫌悪感を顕にした声が投げつけられた。聞こえた先には、一人の男が怯えの交じったしかめっ面で佇んでいる。
「お前ら、何しに来た」
 男の視線は、スイに固定されていた。
「用事があってこの村に来た。別にあんたに迷惑かける気はないし、事情を説明する義理もない」
 無口な相棒がこういう場で言葉を発するわけもなく、いつものように風真が代わりに返答を請け負う。険の含んだ言い方はわざとだ。男のスイに対する無礼をそのまま返しているだけ。
 一瞬怯んだ男は、けれど果敢にも更に食って掛かってきた。後ろから送られる村人たちの同意に勇気を得てのことだろうが。
「金色が、この村に災いを齎さないと言い切れるのか……!?」

 悪魔に魅入られた、色。

 古くから伝わる思想だ。
 体のどこかに金色を有する人間は悪魔憑きと畏れられ、遥か昔から阻害されてきた。皆、必ず何らかの不可思議な能力を身につけている、その事実が言い伝え以上に恐れを齎しているのだろう。
 実際、スイには人にはない力がある。
 ……だがそれは、風真にも当てはまることだった。
「おっさん、あんまりうるさいとさ」
 サングラスに手をかける。現れた金色の双眸に、男が息を呑んだ。
「災いの前に、俺があんたを片付けちまうぜ?」
 金色二人に恐れを生したのか、単に風真の視線に負けたのか。きっとそのどちらもなのだろう、男は逃げるようにその場を立ち去った。ちらほらいた他の村人たちも、いつの間にか消えている。
「風真」
「だって、むかついたんだ」
 拗ねる口調の風真に、スイはただ視線だけを返してきた。
 勿論、先程男に向けて放った言葉ははったりでしかない。人一人害する程の力など、今の風真は有していないし、する気もない。
「うん」
 ぽん、と。不意に頭に乗せられた掌が、宥めるように触れて離れていった。
「だけど、風真は進んでバラさなくていい」
 そう呟いて歩き出したスイに、風真は返す言葉がない。批難ではなく、自分を慮ったが故の彼の言葉に、眉を顰めることしかできなかった。
 金色は、嫌いだ。
 特に、自分の色は。
 風真の感情を理解しているからこそ、スイは髪を染めない。自分の目とは違い、有する金色を隠す方法があるというのに。
 風真が目立つことがないよう、敢えて自分に視線を集めるために。
(……馬鹿野郎)
 何回指摘しても、違うのだと首を横に振り続けた。
『初めて会ったとき、風真、言っただろ。綺麗だって』
 それが嬉しかったから、だから、そのままでいいのだ、と。
 滅多にお目にかかることのない微笑みを向けられて、風真はそれ以上何も言うことができなかった。

 生まれて初めて、金色が綺麗だと思ったのだ。
 あの雨の日、何もかも真っ黒に染まっていた時、唯一きらきらと輝いていた、それが。
 本当に、素直に、綺麗だと思えた。

「……スイ」
 砂を含む風に、髪が煽られる。視線の先、自分より短いスイの金色の髪が、陽の光によってきらきらと輝いていた。
 この世界で、忌むべきものとされている、いろ。
「やっぱ俺、お前の髪、好きだよ」
「……うん」
 表情は変わらない。けれど、風真にしかわからないくらいの小さな反応で、スイが嬉しそうに頷いた。

 彼がいる。だから、まだ生きていける。

「っし、じゃあお仕事頑張りますか!」
 かけ直したサングラスが視界を遮り、いつもの褪せた世界を取り戻す。
 それでも感じた眩しさに目を細め、風真はスイに駆け寄った。
作品名:君だけの色 作家名:水沢