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rapunzzel

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0.
一年半の歳月はキラにとって決して短いものではなかった。

戦争終結により、世界はやっと目が覚めたかのように慌しく新しい時間が流れ始めた。かつて戦争と戦争の間に身をおいていたキラはそこから取り残され、今は四方を海に囲まれた小さな島国でひとり暮らしている。日に二往復しかない連絡船だけが入出手段となっている、辺境の地。ネットワークを介して新たな情報を知ることはできるが、キラはもうそれらに目を通すことはほとんどなくなっていた。何に関しても執着が全くないのだ。ただ、生命活動を維持するための最低限の摂取と排泄を繰り返す、単調で消極的な生活を送っている。変化のない生活は、キラから時間の感覚を奪った。繰り返しやってくる日々はまるで終わりが見えぬ牢獄のように感じられる。だから、キラにとっての終戦後から今までは、千年の孤独を過ごすような苦痛でもあった。
それでも生きなければならない理由があった。


三日に一遍は必ず世話焼きの友人からの他愛のないメールが届く。アドレスを教えた覚えはないけれど、執念深いと言っても過言ではない世話焼き癖と彼の後ろ盾の力を思えば、知られていて当然だった。一人暮しの身を案じたいたわりの言葉のつまったそれに、キラはいまだ返信を返したことはない。けれど彼からのメールは、確かにこころを癒すものになっている。要人のボディガードを勤める彼は、今、世界各地を飛び回っている。時折美しい海岸や空の写真が添付してあり、それはちょっとした旅行記のようになっていた。変化のない生活を送るキラにとってそれは一種の清涼剤になり、いつしか彼からのメールを楽しみに待つようになっていた。
今回はニ週間の間を空けて彼からのメールが届いた。多忙につき送信が遅れるかもしれないということが前回のメールに記されていたので、キラは開いた間に然程の疑問を感じなかった。メールを開く。しかしキラの目に飛び込んできたのは、いつも通りの優しい内容ではなかった。

『―――の訪問中襲撃があって、カガリが負傷した―――――また、戦争が始まるのかもしれない。』

双子の姉の負傷もさることながら、久しぶりに目にする戦争の二文字にキラのこころは騒いだ。
先の戦争で負った傷はいまだ乾いてはいない。世界は失ったものを取り戻すためやっと動き始めたばかりだというのに。

そのメールには事の詳細はほとんど記されていなかった。カガリの傷は浅く大事には至らないこと、これから忙しくなるためメールを出すのはまた先になるかもしれないということ。それだけだった。
彼はキラに何も強制せず、望まない。戦争でキラの負った傷の深さを知り、それを分かち合った唯一の親友である彼は、戦後行く先を告げずにいなくなったキラを、それを知りながらも止めずにそっと見送ってくれた。彼は、もしまた戦争が勃発し窮地に追い込まれることになったとしても、「最高の」と謳われたMSの、しかも数少ないGの乗り手であるキラを引き合いに出したりはしないだろう。閉じられた世界を抉じ開けたりはしないだろう。その気持ちに甘えている、という自覚はある。罪悪感もある。けれどもう戦場へは戻らないと決めていた。この指でトリガーを引くことはない。もう何も奪わない。そう誓ったのだ、一年半前、戦場で、あのひとの姿を失った日から。


その頃、キラはエンデュミオンの鷹と謳われた英雄の背中を必死で追いかけた。彼はキラにとっての理想だった。軍人としての戦闘技術、人生観、セックスの仕方まで、何もかも彼に刻み込まれた。失った父親、あるいは戦友、ときには恋人。すべてにおいてのキラの唯一となった。依存するつもりはなかったけれど、結果そうなっている。彼を失ってからこの身は空洞のままで、埋まることは決してないし、代わりの何かで埋めようとも思わない。彼がキラに残したものはほとんどなかったが、思い出すら惜しくて、だから死ぬこともできずにひっそりと息を紡いでいる。

(もしも戦争が始まったら、僕はどうするんだろう)

薄い画面をゆっくりと指で辿りながら、キラは考える。ここは辺境といえど完全な安全地帯とはいえない。自衛手段すらない。それが運命ならばいっそ朽ちるのもいいかとすら思う。けれどキラを世界に引き止める何かがあって、祈りを捨てきれずにいる。
時々、夢に見るのだ。彼がこともなげに扉を開けて帰ってくるのを。戦場に赴くときにさえあの気軽さの抜けきれなかった彼のこと、何事もなかったかのように、いつものように軽口を叩いて―――――馬鹿げた妄想だが、それがキラを支えるたったひとつの細い糸だ。
約束もないのに待ち続けて一年半が経った。いまだその糸は切れない。手を離すだけの理由も見つけられていない。
けれど、もし戦争が起これば。不謹慎な考えだが、そうなれば彼を見つけられるような気がしていた。戦いの他に彼が身を置くところなどこの世界に見当たらない。たとえ見つけられなくても、彼の辿った道を歩んでその存在を実感できるのなら。


キラは見るともなしに視線を注いでいたメール画面を閉じ、ネットワークを呼び出す。久しぶりに目にする、世界情勢を伝えるニュース。いくつかのコンテンツに目を通した後、チケット購入のための手続きをする。行く先は宙の上。キラの時間が一年半ぶりに動き始めた。
作品名:rapunzzel 作家名:sue