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らきど るきはぴば クッキー

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本日のシマ周りを終えると、すっかりと深夜だ。自分が担当する店は、夜の仕事が多いから、どうしてもそうなる。やれやれ、と、クルマを本部へ戻した。さて、今夜は、どう過ごそうかと考えているのだが、あまりいい考えは浮かばない。店の女でも持ち帰ってくればよかったのだが、生憎、そういう気分でもなかった。とりあえず、筆頭幹部の顔でも眺めて帰ろうぐらいの気分だった。

「到着しました。」

 部下の言葉と同時にドアが開かれる。今夜は護衛もいらないから解散しろ、と、命じて本部へ入る。カポは、本部に住んでいるようなものだが、さすがに、この時間は就寝しているだろう。

 で、筆頭幹部の部屋に足を向けたら、珍しくカポも、そこに居た。何事かあったという雰囲気でもない。なんせ、テーブルの上は酒盛り仕様で酒瓶が載っている。俺の顔を見て、カポがソファから立ち上がる。

「おかえり、ルキーノ。お疲れちゃん。」

「どうした? 深夜の密会か? ジャン。」

「まあ、そういうことにしておいてもよくってよ? ねぇ? ダーリン。」

 いひひひひ・・・と意味深な笑顔で、カポは筆頭幹部に声をかける。筆頭幹部のほうも、ニヤリと頬を歪めた。

「密会ね。そういうことなら、俺としてはベッドがいいな、ハニー? 」

「もう、スケベさん。」

 どちらも顔を見合わせて大笑いしている。この二人、こういう冗談が大好きだ。わざわざ、カポは筆頭幹部のソファの後ろに回り、ちゅっと音を立ててキスまでしている。

「ソファもいいもんだぜ? ジャン。狭くて密着度がいい。後で、すぐに仕事に戻れるしな。」

 一々、気にしてはいけない。だから、こう切り返すと、相手も慣れたものだ。

「そういうマニアックなプレーは、俺はイヤだねぇ。やるなら派手に、どーんっとやりたいぜ。」

「ベッドか? 」

「そりゃ、ベッドでしょ? キレイなおねーちゃんの足を開いてさ、ガンガン動くのが楽しい。」

「また正攻法なことだ。そのうち、飽きられるぜ? たまには、場所変えるのも新鮮なんだ。それに、誰が入ってくるかわからん場所っていうのは興奮するだろ? 」

「このエロライオンは、一々、言うことがエロいんだよ。・・・・まあいいや。用事は、これ。」

 ほれ、と、投げられたのは紙袋で、がさりと音がする。軽いものだ。

「これが? 」

「本当はケーキを焼きたかったんだけど、俺も予定が入っててさ。とりあえず、本日中に渡したかったから、それ。後は、明後日に、みんなの予定が空けられるから、その日にな。」

「ああ? だから、なんなんだ? 」

「毎日、エロいことばっか考えてるから忘れるんだな? あんた、本日、生誕したんじゃなかったけ? ルキーノ。」

「え? 」

「くくくくく・・・・間抜け面すんなよ? おめでとう、ルキーノ。愛してるよーんっっ。」

 カポは、そう言うと俺を抱き締めて、キスをかました。さすがにディープにはしないが、軽いフレンチで俺の唇を軽く噛む。それから、今度は筆頭幹部に、「ありがと。」 と、キスして出て行った。

 バタンとドアが閉まると、筆頭幹部が笑い出す。笑いのツボを刺激されたのか、なかなか笑いの波は静まらない。しげしげと紙袋を眺めて、開けてみると中には、犬だの人型だののクッキーが入っていた。どう見ても市販のものではない。金のないカポらしい手作りだ。自分自身のシノギがないから、稼ぐことは少ない。だが、そんなカポの筆頭幹部は、カポのためなら、いくらでも金の都合なんてつけるのに、それを使わないで、幹部連中の誕生日にはケーキやお菓子を手作りする。ガキじゃあるまいし、と、俺は注意するのだが、悪い気はしない。忙しいカポが、時間を自分の為に使ってくれるなんてのは、嬉しいからだ。

「やっぱり、忘れていたんだね? ルキーノ。」

 ようやく、筆頭幹部が笑いの波から生還した。やれやれ、と、酒で喉を潤している。

「この年で、そんなイベントを覚えているほうが、どうかしてるだろ? 」

「まあ、そういうことなんだけどね。我らがカポは、そうじゃないんだな。おまえのことは、特に気にしてるんだよ。」

「祝ってくれる相手がないからか? 」

 カポと幹部連中は、家族というものと縁が薄い。祝ってくれる相手がないということだから、カポは、それをやりたがる。普通のマフィアでは考えられないことだが、うちのカポは、そういうヤツだ。

「そんなとこだ。今夜、おまえの動向を俺に確認させて、本部へ戻らなかったら急襲するつもりだったんだ。」

「おいおい、止めろよ、ベルナルド。」

「もちろん、そうなってたら止めたさ。・・・・でも、おまえは戻ってくると予想してた。」

 毎晩のように、この筆頭幹部と顔を合わせている。時間が合えば、そこから呑んだり寝たりするからだ。そろそろホリデーの時期だから、仕事も一段落していて、一緒に過ごす時間も多くなっていた。

「まあ、そりゃ・・・・」

「さて、どうする? 今夜は、おまえのリクエストにお答えしようと思うんだが、ソファがいいのかい? 」

「冗談じゃない。俺のヤサがいい。ベッドでたっぷりと溺れさせてやる。」

「あはははは・・・・・ジャンの言ってたことと変わらないな。」

 筆頭幹部は立ち上がると、内線でクルマを手配した。運転手はいらない、と、断っている。自分のクルマを用意させて階下へ降りる。

 玄関には、どちらの護衛も待っていたが、それも断った。二人でヤサで飲むだけだから、と、言えば、護衛もついてはこない。エンジンをかけてベルナルドがクルマを発進させる。

「俺は、明日も早いんだ。近くでいいか? 」

「どこでも同じさ。・・・・とりあえず、クルマが停められるところにしてくれ。」

「それは問題じゃない。」

「それから、そのクッキー。ちゃんと味見しろ。ジャンが、わざわざ用意したんだからな。」

「ブランデーにクッキーって合わないぞ。」

「なんでもいいから、気持ちは貰え。我らがカポからの聖餐だ。」

「おまえ、本当にジャンには甘いな? 」

「フハハハハハ・・・・・それは嫉妬かな? 」

「嫉妬ねぇ・・・・そういうもんでもないな。」

 いつものように、二人して夜を過ごす。それは誕生日でもなんでも関係のないことだ。ただ、まあ、酒のツマミがクッキーになったりはするのが楽しいのかもしれない。