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ラブレター

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食満くんへ。
突然の手紙、驚いたと思います。というか、僕のこと覚えているかな?一応、三年間同じクラスだった善法寺です。保健委員に入っていて異様に不運だった奴が僕なのだけれど、これで思い出してくれたら、僕は自分の不運に感謝しなくちゃなあ…。
話が横道にそれましたが、実は、お礼を言いたくて手紙を書きました。君に話しかけようとすると、いつも当然のごとく不運に見舞われていたので、文字に記す方法をとることにしたんです。
まず、一年生のとき。委員会で遅くまで残っていたときに、いきなりの大雨に降られ学校から出られなくなっていて困っているときに、折り畳み傘を貸してくれたね。あの時、君もたまたま部活で残っていて、置き傘もたまたま二本あって、不謹慎だけど本当に助かりました。
それから、二年の秋。なぜか通学路を巨大マムシが陣取っていて、それが理由で遅刻したとき、周りの反応はいつもどおりの“不運”で片付けていたのに、君だけは最後まで気を使ってくれました。怪我はなかったかと話しかけられたとき、本当にうれしかった。
二年の冬にも、似たようなことがあった。なぜか僕に万引きの容疑がかかって、警察の人から尋問を受けた次の日、担任の先生から、食満君が最後まで警察に抗議してくれたと聞き、涙が出そうになりました。
他にも、細々としたことで、色々と迷惑を掛けています。プリントをばら撒いてしまったら拾ってくれたりとか、顔からずっこけたときも、気を使って声をかけてくれたり。
誰にだって分け隔てなく優しい君だから、きっと僕だけ特別に気に掛けてくれたということはないとわかっています。けれども、僕に掛けてくれた言葉とか、さりげなく人を気遣う優しさとか、この三年間、君に助けられたことは数え切れないんです。
ありがとう。本当にありがとう。
実は、お礼を言うと書いたのは建前で、ここから先、読んでしまったらすぐにこの手紙を捨ててください。ただ、こんな気持ち悪いものが届いたよ、くらい覚えてくれたらうれしいな。そして将来、君の奥さんや子供に笑い話として語ってください。

好きです。恋愛感情で。

あまり話したこともない、しかも男にこんなこと伝えられるなんて、本当に気持ち悪いと思います。僕だって、どうして君を好きになったか分かりません。でも、君と挨拶を交わせば、その日一日はどんな不運に見舞われても幸せだった。授業中、横目で見た君は眠たそうに数学の授業を聞いていた。隣のクラスの潮江くんといつものように喧嘩して、怪我をしないか心配だった。女の子に告白されたという噂を聞くたびに、腹の奥が黒いぐるぐるしたもので覆われて、気持ち悪くなったりした。
こんな小さなことでも、すぐに君を思い出したりして、頭の中に君がいつもいて、僕はどういえばいいかわからない状態です。
本当にごめんなさい。最後に一番大きな迷惑を残してしまって。高校に入ればもう君と会うことはなくて、すぐに君を忘れることが出来ると、最近まで信じていました。でも、無理です。視界に君がいなくなる、そう考えただけでつらいです。
これは、僕のけじめです。君に対する思いを、面と向かって言わない卑怯な僕を許してください。僕はこれを書き終わったら、君の事を忘れる努力をします。がんばります。次の恋、なんて暫くは無理だけれど、僕の思いは、無理矢理だけれど君の中にのこっていると思えば、この恋は無駄じゃなかった気がするからです。

最後に、本当にありがとうございました。

善法寺伊作





「だってよ。三年間保健委員の善法寺伊作さん。」
「ぎゃあ!!ちょ、ま、ええ!!」
古ぼけた便箋を僕に読み聞かせた留三郎は、にやりといやらしい笑みを浮かべた。僕は持っていたマグカップを落としそうになった。落とさなかったけれど。
「いきなり家に来たいなんていうからどうしたんだろうと思えば…!」
「俺もお前も、明日仕事は休みなんだからいいだろ?」
それは、中学三年のときに実施した、『十年後の自分に宛てる手紙』だった。十年たつと、その代の校長先生がその手紙を投函し、過去の自分から今の自分へと手紙が届くという文字通りの企画だったのだけれど、当時の僕は何を考えていたのか、十年後の留三郎に向けて手紙を書いたらしい。ご丁寧に住所まで記入して。
「ああ、本当になに考えてたんだろ。」
マグカップにたっぷり入れた紅茶をすすりながら、留三郎の隣に座る。この間買い換えた、二人用のソファの座り心地はまあまあだ。
「読んだらわかるだろ。俺のこと考えてるじゃん。」
「いや、そうなんだけど、発想がさあ!後先考えてないじゃん!普通は気持ち悪いよ!こんなの届いたら!」
古ぼけた便箋を見てみると、はずかしい内容に顔から火が吹き出そうだった。たぶんこれを書いている時は必死で、十年後のことなんて考えてなかったんだろうな。
すっと手が伸ばされて、迷うことなく彼は僕の肩を抱く。優しく、それでいてしっかりと。
「で、どうだ?」
「…なにが。」
「今、こんな風になって。」
「…。」
この人、きっと馬鹿なんだ。そしてそれで照れる僕も馬鹿だ。僕よりすこし大きな留三郎の手を見ると、告白された時を思い出す。あの時、君はこの手紙を書いている僕と同じような気持ちだったんだなぁ。

十年前の僕、君に返事を返そう。

安心していいよ。もうすぐ君は卒業式を迎えるけれど、その前日に彼に呼び止められるから。最初は信じられないかもしれないけれど、留三郎は必死になって僕に告白するんだ。嬉しくてむずがゆくて、涙と笑いが一気にあふれ出して、きっと今までの人生で一番の幸せを味わえるはずだよ。
「…なに笑ってんだよ。」
「ん、なんでだろうね?」
ニヤニヤしながら留三郎を見れば、ぶすっとした表情で僕を見つめ返している。君と視線が合わさることが出来る、不運な僕には申し分ない幸せだ。
機嫌が良いから、キスでも仕掛けてみようか。そう頭の片隅で考えるよりも先に、僕は留三郎の頬へと手を伸ばした。

いろいろあった。だから、この幸せを手に入れることが出来たんだ。
作品名:ラブレター 作家名:レトロ