すれちがい
そうじ
はすとん、と眠りに落ちていた。総司の腕の中で一
はじめ
はその寝顔を見つめた。自分より大きく男らしい身体をしているのに、幼子のようにあどけない表情だ。
規則正しい寝息を立てている総司に、思わず一は身体を起こしかけ、口にしてしまう。
「総司、お前は・・・本当に俺を好いているのか? 俺だけを?」
長い間、ずっとわだかまっていた疑問。勿論、答えはない。
答えない相手に質問するなどと、詮無いことだ。
しかし、訊かずにはおれなかった。
自分と余りに正反対の総司が、まさか自分の事を本気で惚れるとは到底思えなかった。事ある毎に「好きだよ」と臆面もなく云ってしまう神経が、一には理解できない。言葉巧みに籠絡
ろうらく
されてずるずると関係を続けていても、どうしても飄々
ひょうひょう
とした余裕に隠された総司の本心が掴めない。
(他に思う相手が、本当はいるのではないか・・・?)
きっと自分は、総司の淋しさを埋めるためだけの都合のいい相手にすぎないのだ。
(どうして俺はこんな相手に惚れてしまっているのだろう・・・)
いつの間にか生まれてしまった感情は一を戸惑わせた。翡翠の瞳で愛を囁かれるほど、きつく抱きしめられるほど、快楽を与えられるほど苦しくなる。
(このままでは、何時か俺は壊れてしまうのではないだろうか・・・)
それでも、絡められた脚を解
ほど
けずに、一は総司の腕の中に再び身体を預けた。激しい情交のあとの、泥のような眠気が襲って来る。
もう少し、もう少しだけこのままで・・・。
*
明け方、雨は止んでいた。総司が目を覚ますと、一が腕の中で眠っていた。昨夜の疲れの色は僅かに残っているが、緩められた唇が艶めいて美しい寝顔だった。だがその眦
まなじり
には涙の跡があった。
(一くん・・・。やっぱり僕に抱かれるのが嫌なのかな)
いつも総司の軽口を、顰
しか
め面で諌
いさ
める一。その仏頂面、ポーカーフェイスを崩してみたくて仕掛けた罠に、自分が嵌
はま
り込んでしまうとは。
夜の行為でも、一はいつも気持ちいいというよりも苦しそうな顔をする。自分が行き過ぎてしまうためかと思い、昼間はもうちょっと素直に思いを告げているだけなのに、一は苦い顔をして「そんな事は大っぴらに云うものではない」と撥
は
ねつける。他の隊士とも同じような、いやむしろ厳しい接し方をする。
(好きだなんて、一度も云ってくれないものね・・・。本当は、あの人のことが好きなんじゃないの?)
胸が締め付けられて、そっと言葉を零
こぼ
す。
「一くん。僕は君が好きだよ。愛してる。一くんは、僕の事好き?」
しかし、伏せられた長い紫紺の睫毛が動く気配すらない。
(このままだと、いつか僕は君を殺しちゃうんじゃないかな・・・?)
たまらなくなって、総司は一の華奢な身体ををきつく抱きしめた。鼻に抜ける甘やかな声がして、一が意識を取り戻す。
「そうじ・・・。どうしたのだ・・・?」
「何でもないよ・・・。もうちょっと眠ろう」
そして2人は、どちらともなく意識を手放した。
雨が再び、降り始めていた。