【黒バス】黒子の怪談
桜、嗣ぐ
※このお話はフィクションです。創り事です。
でもきっとこんな想いをしていたかもしれない誰かの為に捧げます。
じゃあ、今度オレね〜。
真ちゃんは知ってる話だけど、いいよね。……え〜? いいじゃん、テッちゃん聞きたいよね? ……ほらぁ。
じゃ、定番で学校の怪談……怪談っても怖い系じゃないかな。うちの学校の話。
秀徳ってまあ巷じゃ伝統校なんて言われてて実際ナンバースクールだし、ま、ぶっちゃけボロい訳よ。
一番古いのが旧講堂で……確か建ったのが大正12年だっつってたかな。勿論体育館は新たに建てられてるし、昔は卓球部が使ってたから体育で卓球あると使ってたみたいだけど、今は完全にただの物置になってるかな。
怪談なんて事欠かなそうに見えるじゃん? それが意外とないんだよね。
その旧講堂に旧帝国陸軍の兵隊さんが居るってのはたまに聞くけどだから何するってこともないし、プール裏の自販機である特定のモン買うと取り出す時に……あそこ、おしるこ入ってないから真ちゃん使わないっしょ……手を突っ込むと中から引っ張られるとかほんの些細で信憑性ない話ばっかでさ。
ただよく解かんねぇ決まり事ってのがたまにあるのよ。
特に明文化されてないし、大抵部活の先輩から後輩に口伝でずっと受け継がれてるけど、それ破ったらどうなるとかのオチはないってのがね。
これはその一つでオレはたまたま宮地さんと外周走ってる時に聞いたけど……真ちゃんは誰からも聞いてなかったんだよね? まあ、お前、人の話聞かないもんな……睨むなよ。
そ、なかなか勘がいいね。これ、結末が解らない謎の掟のオチがたまたま解ったって話。真ちゃんのお陰でね。
うち、学校入るのに都合3つ門があんのね。
正門、裏門、東通用門……まあ図にするとこんな感じかな。で、正門と東通用門は並んでて公道に面して道挟んでグラウンドとテニスコートがある。学校の敷地を後から増やしたから公道挟む形になったんだって。
さっきの旧講堂は正門の目の前にあって校舎もそちら側に寄ってるんだけど、自転車置き場が東通用門から入った方が近いから皆そっち使うし、新入生なんかは言われないとあっちが正門だって暫く知らないんじゃないかな。
で、その普段影が薄い正門なんだけど、何故か8月はそこから入るなっていう決まりがあんだって。
夏休み中だけど部活や補講なんかでわりと先生も生徒も出校してるし、朝から門が閉まるのは19時だからそれまで勿論開いてるんだけど。運動部は外周から体育館に戻るのにショートカットで入る奴が居るから7月までに大抵どの部も言われたっつーてたな、クラスで聞いたら。
オレも宮地さんにそう言われてなんでですか? って訊いてみたけど宮地さんもなんでかは知らないけど先輩に言われたらしい。
木村さんは外周ズルすんなってことじゃね? って言ってたけどそれなら8月限定って意味解んねーよな。
まあ先輩の言うことに逆らってボコられてまで知りたいことでもないからオレは正門通り過ぎて東通用門から出入りしてたんだけど……あれ、真ちゃんなんであの日だけ正門から入ったんだっけ?
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女子生徒が立って居るのが見えたのだよ。こちらに背中を向けていたが見慣れない黒に薄青の2本ラインのセーラー服を着ていたし、来客が迷ってしまったのかと気になったので声をかけるべきかと……当然のことなのだよ。
どうしましたかと尋ねたら彼女は途方に暮れた表情で振り返った。顎のラインで切り揃えたおかっぱの……なんというか、黒子とよく似た虚ろな目をした女子だった。……だからお前の目は虚ろで何を考えているのか解らなくて好かんといつも言って……それはお前らだけだ! 火神、青峰。
まあ、いい。話を続けるぞ。
真夏の盛りだと言うのに長袖のセーラーにスカートも膝が隠れる程の長さで暑そうなのに汗一つかかず妙だな、とは思ったのだよ。
他校生であればまず事務室で入校の手続きを取らねばならないから、オレはそこから見えている事務室の外入り口を示してそう伝えた。
だが彼女は囁くような声で『待っています』と言うばかりで動こうともしない。幾ら夕方とはいえまだ日差しは強く、此処では暑いだろうからせめて陽が陰るまでは日除けのある建物側で待つよう勧めたのだが、此処でなくてはいけないというように頑として動かない。
特に遮蔽物もないのだから日陰で待っていても待ち人は解るのだがおかしな話なのだよ。
そこまで言うのならば仕方ないと思った時に門の外から高尾が凄い剣幕で呼ぶのでそちらを振り返ったのだよ。高尾はいつも喧しいが……黙れ、喧しい。……どうにも様子がおかしい上に門の中には入ってくる素振りがないので仕方なくそちらに戻りかけて、気になったので再度女子に声をかけて念を押しておこうと――こんなところで熱中症になられても寝覚めが悪いのだよ。
ああ、もう一度振り返ったら彼女はもう居なかったのだよ。
しかし翌日の仕上げの外周の時間になるとまた黒いセーラー服が門の陰から見えたのだよ。昨日の女子だなと思いやはり声をかけた。
もしかしたらうちの生徒と交際していてその人物の補講か部活が終わる時間を待っているということなのかと思い至ったが、なんにせよ、婦女子をこんな屋外で待たせておくのは感心せん。
だがやはり待っているということしか告げるつもりがないらしく、どうにも意思疎通ができん。
昨日は気付かなかったが手にはなにらや手拭いのような物を握り締めているだけで所持品は他になく、胸布の真ん中にうちの女子生徒の制服と同じように校章のピンズを付けていたが花弁を三方に象ったもので見覚えがあるような記憶のひっかかりを感じるが……思い当たらぬものだった。
埒が飽かないので教員を呼びにいこうと一瞬視線を逸らすとまたその間に掻き消えるように姿を消してしまったのだよ。
まるで黒子のように。
更に翌日もだ。
その日はたまたま高尾が珍しくオレのペースで並走してきていたので門の前で高尾を呼び止めたのだよ。
オレは知らないが高尾なら無駄な情報網を持っているから何か解るかも知れないと思い――。
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……真ちゃんはそう言うんだけど……まあ……女の子なんてオレには何処にも見えないんだよねー、ははは……ゾッとしたねえ。だってまさか真ちゃんがそんな冗談言うとは――あ、そん時オレ、真ちゃんが例の掟を知らないってこと知らなかったんだわ。うん、真ちゃんがそんな悪い冗談でオレを驚かせようなんて思い付く程柔らかい頭してないのは皆知ってるっしょ。
大体、どんな女の子なのって聞けばやたら描写細けぇし。なに? 真ちゃんの好みのタイプだったの? それだったらちょっと見たかったけど……痛っ!
普段、クラスの女子が呼んでるって言うから誰? って訊くと髪が長いくらいしか答えないような真ちゃんだよ? どんだけ人に興味ねえのってゆーね。
とにかく宮地さんが言ってたのはこれだろうなと思って関わんなってなんとか引き摺って部室まで戻ったけど。
毎日、真ちゃん、正門前でどうしても立ち止まるんだよね。
今日も居るの? って言えばああって。
作品名:【黒バス】黒子の怪談 作家名:天野禊