あなたがほしい
ナルトは肩を強くつかんでいた手を、からだの側面にそってするりするりと腰まで誘うように移動させた。余った指先で唇のかたちをていねいに確かめるかのようになぜる。
はぁ、と漏れ出した息を合図のように、サスケのだらりと放置されていた手を取って、手首をつかんだ。好い加減にしろよ、とまだ埃くさい彼に文句を言いたかったけれどそんな余裕さえ与えられない。手首をつかんでいた指はいつのまにかサスケの指先をもてあそんでいやらしく絡ませる。
(――血のにおいだ…)
こんなに近づいていればわかる。任務服は見た目はただ薄汚れているだけだが、彼からはうっすらと血のにおいを感じられた。慣れているとはいえこんなときには不釣り合いでとても非日常的だ。
答えるようにサスケはナルトの指と自分の指を絡ませ合って、彼の指はとてもざらざらしていて、でもそんなことは今どうでもよかった。合わさった部分すべてから溶け合って侵食しあって、脳の奥から髪一筋まで、ぐずぐずに溶けきって溶解してしまいそうだ。酸素不足で高鳴る心臓の音にも眩暈がする。重い水の中に沈められたように俺たちは何も見えなくなってゆく。
(まるで魚みたいだ)
キスの合間、ささやくようになまえを呼ばれ呼び返す。切羽詰まっている彼がおもしろくなって、笑った。
どこかで雨が振り出す。それは幻聴かもしれない。耳のおくから砂嵐が舞い散ってざあざあと音をたてている。体の奥はあついはずなのに芯はおそろしいほど冷たく、そしてぬるかった。
引力がはたらいているかのように指先と指先、唇と唇、舌と舌、俺と彼の何もかもが引きつけ合った。呼吸さえも呼応していた。
ふたたびなまえを告げられたときの、その一息が鼻の先に触れたと思ったら泡のように消えてしまった。今ならすべてが手に取るようにわかるような、そんな気がした。