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其処に居る幸せ

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其処にいる幸せ



 この広い家で、弟と二人で暮らすようになってから、どれほど経っただろうか。一度は引き離され、再び共に居られるようになった直後は、姿が見えないと不安になったりもした。また、一人になってしまうのではないかと。弟が居なくなってしまうのではないかと。
 だが、それも今は昔。此処は自分の家で、弟にとってもそれは同じで。今の自分達が帰ってくる、大切なたった一つの場所なのだ。

「暇、だな」
 ギルベルトは、ぽつりと呟いた。リビングのソファで、手近にあった雑誌をぱらぱらと捲っていたが、特に興味を惹くものもなかった。すぐに飽きてしまい、雑誌をテーブルに放り出すと、だらりとソファに横たわった。奥の部屋からは、物音が聞こえる。ルートヴィッヒが、朝からずっと掃除をしているのだ。構いに行こうかとも思ったが、邪魔をして不機嫌になられても後が怖い。かといって、手伝うなどとうっかり言ってしまえば、一日中掃除につき合わされて終わってしまいそうだ。掃除自体は嫌いではないが、面倒だ。それに今日はそんな気分でもない。
 どうしようかと考え、ふと時計を見てみれば、既に昼も過ぎていた。
「そういえば腹減ったな……」
 朝食を摂ってからは大分時間が経っている。適当に何か作ろうかと冷蔵庫を漁ってみれば、充分な材料はあった。それを全て引っ張り出して調理台に並べ、袖を捲ってエプロンを身に着けると、ギルベルトはにやりと笑った。



 ガタガタと、リビングから音が聞こえる。いや、もしかしたらキッチンだろうか。丁度この部屋の掃除は終わったので、ルートヴィッヒは様子を見にいくことにした。リビングに近づくにつれて、仄かに甘い香りが漂ってくる。ドアを開けてみれば、エプロン姿でキッチンに立つ兄の姿があった。ギルベルトがこちらに気づいて振り返る。
「おう、ヴェスト。もうすぐ出来るから、待ってろ」
 言われて初めて、空腹に気づく。掃除に夢中になりすぎていたようだ。
 洗面所に行って手を洗い、リビングへ戻る。ソファに座り、兄を待つ間、テーブルに投げ出されていた雑誌を何とはなしに読み始めた。
(それにしても)
 本を開いたまま、ちらりとキッチンに視線を投げる。
こうやって、兄の作る料理を待つのは、どれくらいぶりだろうか。幼い頃は良く作ってくれたものだが、一緒に暮らし始めてからの食事は自分が用意する方が多かった。彼がキッチンを使うと、散らかし方が気になるから、というのが大きな理由だったが、基本的に何でも出来るのに面倒がりで飽き性の彼は、よっぽど気が向かないとやらないのだ。
 ギルベルトは随分と上機嫌なようだ。鼻歌が聞こえてくる。何の歌なのかは、いまいち良く判らない。
 ルートヴィッヒは雑誌に視線を落としながら、なんだか懐かしい気持ちになる。兄が何を作ってくれるのだろう、と心待ちにしていた子供の頃のような感覚。今は、兄の動作と漂ってくる匂いで、何を作っているのかは見なくても予想できるけれど。



「出来たぞー!」
 声に、ルートヴィッヒは雑誌を閉じて脇に置いた。満面の笑顔を向けるギルベルトは、器用な事に、両手で皿とフォーク・ナイフを二人分まとめて持っている。それをテーブルに置くと、エプロンを外して自分もソファに座った。
 皿の上で湯気を立てているのは、ルートヴィッヒが予想した通り、ホットケーキだった。黄金色に焼かれたそれは、乗せられたバターが蕩け、メープルシロップがたっぷりかかっている。
 ナイフで少し切り取り、口に運ぶ。ふわふわと厚めに焼かれた生地は、シロップの甘さとバターの風味が合わさって、この上なく美味しい。空腹も手伝い、黙々と食べ進めた。広がる甘い香りが疲れも癒してくれるような、そんな気がした。



「……」
 ギルベルトは、ふと手を止めて、目の前にいる弟の様子を伺う。一見無表情に見えるが、僅かに口元が綻んでいるのが判る。他人からは判らない程度の変化かもしれないが、兄である自分には良く判る。喜んでくれているのだと思えば、自分も嬉しくなった。
 視線に気づいたのか、ルートヴィッヒが顔を上げた。
「美味いか?」
「あぁ」
 問えば、更に口元を緩めた。その笑顔に、この上なく暖かな気持ちになる。自分よりも大きくなり、もう幼い子供の頃とは違うが、その気持ちだけは昔と変わらない。



 何気ない時間でも、変わらない日常でも。大事な人が其処に居るという、そんな幸せな日々。





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web拍手用に書いていた物…でした。お題サイトから。こちらの66番です。http://haruka.saiin.net/~title/0/cgi/o2/s/web.htm
作成日時2009年6月9日に戦慄した…。古い…
作品名:其処に居る幸せ 作家名:片桐.