緋弾とHSSを持つ俺
第一話・脱走
パンッ、パンッ、パンッ。
必死に木々の間を駆け抜ける。背後から銃声が聞こえるが、奇跡的にか俺――かなたには一発も当たらない。
痛みに耐えるだけの毎日なんて嫌だ。俺は実験体でもなんでもない、一人の人間なんだ。十年間研究施設のような建物で育ったが、ほとんどの時間を薬の投与で過ごした。そうしなければ死んでしまう、と研究所の人間に言われた。
たまに走りながら後ろを振り向き、スナイパーが撃ってくる弾を避ける。普段の俺ならそんなことはできない。今はヒステリア・サヴァン・シンドロームという特異体質によって、思考力・判断力・反射神経などが通常の三十倍にまで向上しているから当たらないのだ。
ヒステリア・サヴァン・シンドローム。俺はHSSと呼んでいるが、性的興奮をしβエンドルフィンが一定以上分泌されると神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進され、その結果HSS時には思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する特異体質らしい。
その代わり、女性の事を最優先に考えることで、物事の優先順位付けが正しく出来なくなったり、女性にキザな言動を取ってしまうなどの反作用がある。
それが嫌だったが、この森の中で女性が出てくる可能性もないと思い、逃げるには有利だから利用させてもらった。
小一時間追っ手と追いかけっこをしていると、進行方向に街の明かりが見えた。今は深夜だから、この方向で明かりがついているのは街しかない。そこも抜かりなく調査済みだった。
気づくと銃声はすでに止んでいる。深夜でも一般市民が起きていることはあるから、バレたらまずいことでもあるんだろう。
一応利用しようとしていたとはいえ、俺を造ってくれたりここまで育ててくれた恩があるから、振り返り研究所の方へ頭を下げる。
それでも銃弾が飛んでくる可能性はあるから、目的地まで――兄が在学していたという東京武偵高校へと息を切らしながら走り続けた。
今は亡き兄――遠山キンジが通っていた東京武偵高へ。
作品名:緋弾とHSSを持つ俺 作家名:迷神 謎