東方大禍時 一時目
終からの始まり
あぁ、なんと不運なことだろう。どうやら俺はぽっくり逝ってしまったようだ。
死因?歩道を歩いてる途中にトラックが突っ込んできた…のだがそのトラックを俺は間一髪で何とか避けることができた。
だがなんとも可笑しなな話だが、避けた直後に背後のブロック塀の角ばった部分に頭を見事に激突させて逝った、らしい…
「という訳で君は死んだんじゃ、『古谷宗一』君。」
そう、らしい、というのはこの目の前のご老人からこの話を聞かせてもらったからだ。
そりゃ死んだ瞬間のことなんてそんな明確には覚えられないだろうしな。
「ご老人とは失礼な、これでも4000歳じゃ」
「それを世間ではご老体と呼ぶんですよ?」
目の前でご老人が何やら俺の返答に対して言っているようだが…まぁ余り関係ないと思うので一旦無視しておこう。
実は少し前からご老人とは話し合っていたのだが、どうやらこの方は「神」らしいのだ、まぁなんとなくそんなテンプラもといテンプレなことは頭の中では理解していた、なんせ…
「ん?どうしたんじゃ?」
この神たるご老人、今俺の目の前で浮いているのだ。
今この場は生前の俺の部屋、もしも右も左も真っ白、というふうな世界ならばまだ『きっとこの場の色と全くの同色の台にでも乗っているんだろう』
と考えられもしたが…世界の法則を目の前で無視された俺も、一瞬固まってしまった。
そんな状況に未だついていけている我が脳を褒め称えてやりたい。
「…ということじゃよ、わかったかの?」
「………」
このご老人が仮に本当の神様なのだとしたら
『あなたの話なんて俺には全く関係ねぇ、と思って全く聞いてませんでした』
なんてもちろん言えるはずもなく…
もう返答はしている、この俺の沈黙こそ神様への返答だ。
「…分かった、聞いてなかったというわけじゃな」
「…申し訳ないです」
仮初の謝罪でこの場を切り抜けようとする、が
「聞いてなかったんじゃろう?」
神様の有無を言わさない迫力に、思わず首を少しだけ縦に振ってしまった。
「…まぁよい、それでは改めて話そう。話すことはこれからのお前のことについてじゃ。」
「え?俺死んだんでしょう?まさかあなたの手違い…」
「あ、うん、それはないからの。」
「せめて糠喜びくらいさせてほしかった…」
orzの体勢になって声のトーンを落としながらそう言った。
「まぁまぁ、お主にも余り悪い話ではないと思うが?」
「ほうほう、それはまたどうして?」
俺は一瞬で立ち直り話を聞く。
悪い話ではない、と相手が言っているのだからそりゃ食いつくだろう。
「現金じゃな…それはともかく、じゃ。
お主には『転生』してもらいたい。」
「へぇ、そりゃまたどこに?そしてなんで?できるならもういっかい地球がいいな。俺のやり逃した仕事(主にPCの画像フォルダ削除)を済ましたいんだけど」
「口調が崩れてきておるぞ…それもまぁ置いといて…まずお主は地球には戻れない。
無理に戻そうとすると地球に歪みが生じるからの。それで後者の質問じゃが、前者の答えとお関係しとる。なんせお主の霊力やら妖力はとんでもないくらいの量での。あのまま地球に存在していたら地球に異常が発生してしまうところじゃったんじゃよ。その点においては都合がいいとも言える」
いきなりワケのわからない単語が出てきたが、無視して話を続けてもらった。
「それでまぁ、お主には地球以外の場所…というよりもある場所で転生してもらう。」
「ほう、それでそのある場所、というのは?」
「お主なら聞き覚えはあるかもしれんな…名は幻想郷、世から忘却されし存在たちが集う、まさに幻想の郷じゃな。」
…え?幻想郷?…といえばまさか…
聞き覚えもなにも…生前よくやったゲームの舞台となる場所だ。
「幻想郷って…吸血鬼姉妹やら腋露出させてる巫女さんやら白黒カラーな魔法使い少女達がいるあの!?」
神様は俺の異常な食いつきっぷりと反応に少しばかり驚きながらもしっかり答えてくれた。
「うむ、もちろん、お主のよく知る幻想郷じゃ。」
なんということだ、遂に不運な俺にも運が巡りまわって来たようだ…
「いや、だけど彼処には確か妖怪やらもいるんだろう?俺の身は大丈夫なのか?転生した矢先に餌になるなんてお断りだぞ?」
そう俺が言うと、神様の目が待ってました!と言わんばかりの目に変化した。
「そうじゃろうよ、じゃからのう…お主には幻想郷で生きていける程に強力な能力をやろう!」
能力、といえば…有名なのだと「空を飛ぶ程度の能力」とかそんあもんか。
確かに強力な能力さえあればあそこでも生活していけるだろう。ならばもちろんもらわない手はない。
「ん?だけど能力って言ってもいろいろあるんじゃ…」
「そうじゃな、だからお主に決めてもらうんじゃ。」
「…それってつまり…チート無双やらも可能ですよね…」
「ま、まぁそうじゃな…望む限りの能力を与えるし…といっても三つまでじゃ。
それ以上だとお主の魂が耐え切れん。」
そもそも普通一つの能力を三つ以上も欲しいと思うほど俺は強情ではない。
しかし能力を急に三つ与えてやるから考えろ、と言われても…
「…それじゃぁまず一つ目だ、『あらゆる答えを出す程度の能力』が欲しい。」
文字通りの能力だ、どんな逆境だろうが、どんな難問だろうが一瞬で答えが浮かぶ能力だ。
まるっきりどっかの天才中学生さんだが…まぁ気にしない。
「いきなり大層な能力じゃな…うむ、まず一つ目は追加しといたぞい。」
「そんじゃ二つ目だ、『想像を創造する程度の能力』が欲しい。」
これも読んで字の如し、創造した物だろうが創造した光景だろうが、要するに想像したことを実現させる能力だ。これはどうしようもないときに使う緊急用だ。
「まったく…とんでもない能力じゃな…ほい、二つ目も追加しといたぞい。」
「よし、それじゃ最後の三つ目だ、『焔を司る程度の能力』だ。」
うん、一目でわかるような超単純能力だ。
他にも雷やら風やらも思い浮かんだものの、やはり男なら炎だよ、うん、きっと。
「最後だけやけに簡潔じゃな、まぁよいが…よし、これで三つ目も終わったぞ!」
「おぉ、遂にあの幻想郷へ行けるんだな…」
「そうじゃ、ついに逝けるんじゃぞ!」
「もう逝ってますって」
「おや、そうじゃった」
ニッと神様が笑うと、急に地面に亀裂が走る。
「ん?…これは、このパターンはまさか…」
「アディオス!」
その一声と共に、亀裂の入った地面がぱっくり割れる。
「ふざけんなああああああああ…」
俺の叫び声は虚しく割れ目の底へと響くだけだった…
・・・・・・・・・・・・・・・
「…ふぅむ、しかし彼奴…身体能力やらは大丈夫なのかのう…
どれ、もう少し体をいじってやろうかの」
宗一が割れ目に落ちしばらくした頃、心配性の神様は宗一を更に強化できるよう、頑張っていた…